「急発進」から1年

 「好発進」という言葉には、どこか弾んだ響きがある。東京五輪は一部の競技がきのう始まり、日本勢ではソフトボールが最初の勝利を挙げた。好発進という軽やかな一語が心地よい▲「急発進」だと一転、危うい感じになる。1年前のきょう、観光業界を支援する「Go To トラベル」が、前倒しでいきなり始まった。あの混乱ぶりを思い出す▲コロナ感染が再び広がり、猛反対もあったが、東京発着を除くことで政府は押し切った。キャンセル料は補償しない、いや、補償する-と迷走し、惑わされた人も多かったろう▲あれから1年、感染数は同じように上昇カーブを描く中で、きょうから4連休に入る。県は感染のありさまを、最も低い段階の「散発」に下げたばかりだったが、また「少しずつ増加」へと引き上げた▲県民に限って県内での宿泊料を割り引くキャンペーンは続けるという。1年前、県境をまたいだ人の移動がぐんと増えたが、今また、県境という目に見えない「ついたて」が背を高くする▲「Go To」は半年足らずでブレーキを踏んだ。むちゃだった、恩恵もあった、と評価は分かれるが、いずれにせよ始めるタイミングは、あの時点ではなかったろう。「好発進」が心地よいのは、時機を逸する場面を多く見てきたからかもしれない。(徹)

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