元阪神・金本監督から激励 “鉄人”の指導が淡路島の女子野球クラブにもたらしたもの

「1日特別コーチ」としてチームをサプライズ訪問した金本知憲氏(中央)【写真提供:淡路ブレイブオーシャンズ】

金本知憲氏が今年4月、「1日特別コーチ」としてチームをサプライズ訪問した

今春公式戦デビューした淡路ブレイブオーシャンズが、関西女子野球硬式野球選手権ラッキートーナメント大会で3位と存在感を示した。かつて淡路市を本拠地にしていた女子プロ野球兵庫ディオーネでプレーしていた選手たちが、淡路島への恩返しのために立ち上げたチーム。阪神前監督の金本知憲氏からも激励を受け、目標の日本一へ走り出した。前後編の後編。【石川加奈子】

今年4月、金本氏が「1日特別コーチ」としてチームをサプライズ訪問した。練習に3時間立ち合い、打撃練習では選手一人ひとりに熱心にアドバイスを送った。「テレビの取材で少しだけかなと思っていたのですが、2時間も3時間も見てくださって。すごく濃い時間を過ごすことができました」と泉由有樹コーチ兼投手は興奮した口調で当時の様子を思い起こす。

仕掛けたのは、クラウドファンディング「CAMPFIRE」の担当者だった。田中監督が説明する。「CAMPFIREのテレビに出していただくことになり、担当の方が何度か練習に来てくださるうちに、私たちのチームのことを好きになってくださったんですよね。プロ野球で活躍した方とコラボできたらいいねという話はしていたんでけど、まさか本当に連れて来るとは思っていませんでした。しかも、金本さんだったので、みんなびっくりです」。

当日は終始、金本氏の凄みを感じさせられてばかりだったという。「選手たちも金本さんへ良いところを見せようと、張り切って練習に臨んでいましたね(笑)。個々への技術のアドバイスから野球自体への考え方まで、一人ひとりの要望にあったアドバイスを送っていただきました。一目見たときのオーラだったり、実際のスイングを見させてもらって、ただただ凄いと感じさせられてばかりでした。短い時間でしたが、チームにとって本当に貴重な経験をさせていただきました」と田中監督は振り返る。

その場で目標を尋ねられた田中監督は「クラブチームでNo.1になりたいです。何年かかるか分かりませんが、それまで応援してください」と即答。淡路島まで足を運んでくれた金本氏に、近い将来日本一になることを誓った。「金本さんが『応援する』と言ってくれたので、すごくうれしかったです」と泉コーチは“約束”の瞬間を忘れない。

バッティングを指導する金本知憲氏【写真提供:淡路ブレイブオーシャンズ】

川野秀美投手「チャレンジすることが大事という言葉が心に響きました」

“鉄人”が発する貴重な教えの数々を選手たちはしっかりと胸に焼き付けた。一昨年まで女子プロ野球の育成選手だった川野秀美投手は「失敗を恐れず、どんどんチャレンジすることが大事という言葉が印象に残りました。私自身、ビクビク野球をやっている部分があったので、すごく心に響きました」と感謝する。

金本氏の協力は「1日特別コーチ」だけで終わらなかった。クラウドファンディングの返礼品として直筆サイン入りバットなどをプレゼントしてくれた。移動用の大型車両購入のために募ったクラウドファンディングには、地元名産の淡路牛や生パスタといった返礼品も加わり、目標の200万円を大きく突破。3月12日から4月29日の期間に、203人が278万1500円を支援してくれた。

「テレビなどに出させていただいたこともありますが、この時期にこれだけの方が支援してくださるというのは、クラブチームではあり得ないこと。本当にありがたいです」と田中監督。始める前の不安は吹き飛び、反響の大きさに身が引き締まった。現在、支援金を使って、移動の負担軽減のための29人乗りマイクロバスの購入準備を進めている。泉コーチは「全国各地から支援がありました。女子プロ野球のファンだった方もいますし、このチームを知って支援してくださった方も多いです。その人たちのために頑張ろう、もっと盛り上げていこうと思います」と決意を語る。

女子プロ野球界を引退した田中監督と泉コーチが「島に恩返しをしたい」という思いで立ち上げたチーム。昨年は指導者2人と選手2人で活動していたが、今年は侍ジャパン日本代表の3選手らが加わり、選手は総勢14人に増えた。島のおじいちゃん、おばあちゃんや子供たち、さらには全国各地からの声援を意気に感じながら、金本氏との約束である日本一に向けて突っ走る。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

© 株式会社Creative2