【柔道】5年前の雪辱! 金メダル・新井千鶴が確立させた〝勝利の方程式〟

金メダルを決め笑みを浮かべる新井

「y=ax+b」で勝った! 柔道競技5日目(28日、日本武道館)、女子70キロ級決勝で新井千鶴(27=三井住友海上)がポレレス(オーストリア)を下し、金メダルを獲得。2016年リオ五輪での田知本遥に続き、2大会連続で日本勢が同階級の頂点に立った。忘れることのできない悔しさを味わったあの日から5年。猛練習で〝勝利の方程式〟を確立させた苦労人が、ついに大輪の花を咲かせた。

どん底からはい上がった。2016年リオ五輪の代表選考会となった同年4月の全日本選抜体重別選手権では、決勝で田知本に敗戦。五輪切符を逃した。東京五輪には必ず出場する――。再スタートを切った新井は、17、18年世界選手権で連覇を達成。しかし、19年大会はまさかの3回戦敗退に終わり「やってきたことを出し切れなかった。自分は何をやっているのだろう」と大粒の涙を流した。

周囲からは「真面目すぎる」との声もあった。それでも「真面目」だからこそ、新型コロナウイルス禍の中でも「本当にちょっとのことでもいいから目的を持って取り組む。自分の信念を貫き通してやることが大事だと思う」と気持ちを切らすことはなかった。

その成果が自国開催の大一番で出た。2回戦、準々決勝を順調に勝ち上がると、準決勝のタイマゾワ(ROC)戦は16分41秒に及ぶ激闘の末、送り襟絞めで絞め落として一本勝ち。決勝のポレレス戦は優勢勝ちを収め、5年前のリベンジに成功した。「自分の信じてきた道をしっかりやってきたと思って、最後は五輪の畳の上に立てた。その思いを持てたし、結果もついてきたので、報われた気持ちです」と喜びを口にした。

金メダルの舞台裏には反復練習があった。全日本柔道連盟の強化関係者は「パターン練習をものすごくやっている」と明かす。なぜ、無意識のレベルまで動けるように反復する「パターン練習」なのか。

「パターン練習を繰り返しやっていく中で、瞬時に体が反応するようになる。学習理論の中で隙間理論っていうのがある。その隙間って(一次関数の)y=ax+bみたいなもんですよ。いろんなパターン練習で技術などを習得して、公式に当てはめて代入したらy(答え)が出てくる」(同関係者)

隙間理論とは、知識の空白があるとそれを埋めようとする欲求が働くというもの。なかなか難しい話ではあるが…つまり似たようなパターン練習を繰り返すことで、〝公式〟に当てはめるべき技を頭で考える前に、自然と出せるようになるということだ。

さらに、男子73キロ級で五輪2連覇を達成した大野将平(旭化成)が行ってきた「柔道着トレ」も実施。柔道着を握った状態でウエートトレーニングをすることで、柔道以外のトレーニングでも組み手時の感覚を養ってきた。同関係者は「新井は外国人にも力負けしない。本当にものすごくトレーニングを積んでいる。試合ではなかなか正面を切って力比べということはないが、足技もいけるし、寝技もいけるっていうところで、オールラウンダーで展開できる」と褒めたたえた。

地道に歩みを進めてつくり上げた〝勝利の方程式〟で栄冠を手にした。新井は「振り返れば苦しいときのほうが多かったが、諦めずにやってきて、それが報われたのでうれしかった」。その笑顔は誰よりも輝いている。

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