ウルフ・アロン 日本のメダルラッシュ呼んだ柔道界への「ダメ出し」 小川直也氏も称賛

金メダルを獲得したウルフ・アロン

柔道競技6日目(29日、日本武道館)、男子100キロ級決勝で初出場のウルフ・アロン(25=了徳寺大職)が趙グハム (韓国)に延長戦の末に大内刈りで一本勝ちし、金メダルに輝いた。すでに世界選手権、全日本選手権を制しており、男子では史上8人目となる「柔道3冠」を達成。レジェンドたちに肩を並べる快挙を成し遂げた。新たなニッポン柔道のエースは畳の上だけではなく「オピニオンリーダー」としての期待も背負っている。

自慢のスタミナで攻めまくり、最後は豪快な大内刈りで勝負を決めた。その瞬間、両手を突き上げてガッツポーズ。こみあげてくるものを抑え切れず、男泣きした。

延長戦の激闘を制し、金メダルを手にしたウルフは「練習量の部分だけは誰にも負けない自信があった。接戦になればなるほど僕自身の持ち味が出てくると信じて戦った。子供のころからたくさんの大会をここ(日本武道館)でやってきて、自分自身の目標だった東京五輪をここで優勝することができてとても感慨深いです」と喜びをかみしめた。

米国人の父を持つハーフで、下町の東京・葛飾区出身。SNSでは見事な包丁さばきを披露する「料理男子」としても知られた。昨年10月には自ら離婚を公表するなど、自身で〝発信〟を続けてきたが、畳の外で大きく評価を上げる出来事があった。

昨年3月、新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京五輪の1年延期が決定。これを受けて陸上・マラソンや競歩、卓球、競泳、バドミントンなどの競技団体は、五輪代表に内定していた選手について、代表権をスライドさせることを次々に決めていった。ところが、男子66キロ級以外の男女13人の内定を発表していた柔道界は権利の維持に慎重な姿勢を貫いた。

この際にウルフは「柔道だけちょっと判断遅いかな」とぴしゃり。代表選手たちの胸中を代弁するかのように「自信を持って今の選手でいくと言ってほしい」と代表権維持を訴えた。

それでもウルフらが東京五輪に臨むことが正式に決まったのは、同年5月15日のこと。ウルフはインタビューで「定まらない期間が続きましたけど、正式に決まったということでモチベーションも上がってはいますし、あとは一日でも早く柔道もできる環境が整うことを願ってます」と冷静に語っていた。

長男の小川雄勢(パーク24)がライバルとしてウルフと戦ってきた、バルセロナ五輪95キロ超級銀メダルの〝元暴走王〟小川直也氏は「判断遅い」発言を称賛する。

「彼がしっかりと選手の意思を示したことは非常に大きかったし、立派だった。〝代表はオレたちだ〟とマスコミの前で堂々と発言して、流れを変えてくれた。柔道界では、とかく周りにどう思われるとか考えちゃうものだけどね。でも、彼が言わなかったら、今回の代表メンバーはいなかったかもしれない。そういう意味で彼は、今回の金メダルラッシュの功労者でもあるんだよな」

伝統の柔道界では上下関係が厳しく、選手の側からはなかなか発信しにくい。そうした状況を打破したウルフの〝功績〟は大きいという。

これで史上8人目の「柔道3冠」の大偉業を達成。猪熊功、岡野功、上村春樹、山下泰裕、斉藤仁、井上康生、鈴木桂治らそうそうたるメンバーに名を連ねた。100キロ級の金メダルはレジェンドの一人、全日本男子の井上監督以来21年ぶり。ウルフは「井上先生が取ってから金メダルがない階級だったので、僕自身が取り戻してやろうという気持ちで戦いました。まだ実感はないんですけど、最高です」と胸を張った。これからもニッポン柔道のエースとして発信を続けていく。

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