「開催するからには選手を応援したいと思っていますが、全ての競技がテレビ中継されるわけではないのですよね…」。ほぼ無観客開催の東京五輪を巡り、横浜市港北区の主婦(46)から「追う! マイ・カナガワ」取材班にこんな声が寄せられた。選手の家族すら現地観戦ができない中、テレビでも見られないのは残念すぎる─。
馬術のチケットに当選していた投稿者の女性は、せめてテレビ観戦しようと思ったが、新聞のテレビ欄で見つけられなかった。インターネットで調べ、競馬の専門チャンネルのみで放送されると知ったという。
五輪は多くの競技が同時に開催され、テレビで生中継される試合は限られる。27日に金メダルに輝いたソフトボール決勝が瞬間最高視聴率46.0%を記録した一方で、なかなか注目されない競技もある。
カヌーもそのひとつ。相模原市出身の足立和也選手が28日に出場したスラローム男子カヤックシングル予選も放送はなかった。
足立選手は堂々6位で30日の準決勝に進んだが、取材班が調べたところ、29日時点で放送予定はない。NHKに聞いてみると、「日本選手が決勝進出した場合、急きょ番組内容を変える可能性はある」が、直前まで分からないという。
◆勝手違う動画
NHKは大会中、ネットの特設サイトで全33競技をライブ配信している。
足立選手が所属するヤマネ鉄工建設(山口県長門市)では、会議室で社員ら約50人が動画配信で28日の予選を観戦した。しかし、詳しい実況や、分かりやすい解説がつくテレビ中継とは勝手が違ったという。
社員は「競技自体もマイナーで、初めて見る社員も多かった。解説がないと難しい」と打ち明け、「一緒に観戦したいという地域のお年寄りの方もいた。コロナ禍なのでお断りしたが、テレビならお年寄りも見やすいのに」と残念がる。
出身の相模原市立大野小学校(同市南区)は児童らに応援を呼び掛けたというが、教員は「テレビ中継があれば職員室でもみんなで見られるんですけどね」。
◆アピール期待の競技 関係者やきもき
カヌーのように普段はテレビ中継されない競技は、五輪を機に世間に競技の魅力をアピールしたいはずだ。日本カヌー連盟の春園長公副会長は「多くの人にカヌーを知ってもらえるよう、ぜひ、テレビで生中継してほしい。準決勝で上位に残れば、テレビ放送もあるかもしれない」といちるの望みに懸ける。ただ、放送がある場合、通常はテレビ局が連盟経由で解説者を手配するが、29日午後の時点で「連絡は来ていない」と声を落とす。
副会長は「今回は日本のメダルラッシュもあり、決勝に残ってもカヌーの放送は難しいのでは」と厳しい現実に目を向ける。決勝が行われる時間帯には、柔道、バドミントン、バレーボールなどの人気競技の生中継が予定されている。
◆取材班から
NHKのサイトでは全競技が動画配信されるというので、取材班は28日、試しにテレビ放送していない射撃の予選を見ようとクリックした。ところが、動画が見当たらない。「国際映像がない試合など一部配信されないものもあります」(NHK)。残念ながら、テレビでもネットでも見られない試合もあるようだ。
日本クレー射撃協会に聞くと、「決勝もネット配信だけで、人気スポーツとの差が残念。五輪では中継してもらおうと、民放での芸能人対決とかいろいろ取り組んできたのですが」。
地元開催の五輪をまったく見られないとは…。ファンが増えることは期待できないし、関係者や選手の家族は、どんな思いで結果を待っているのだろう。