【山崎慎太郎コラム】ふだん冷静な仰木さんのひと言で球場が異様な雰囲気に

近鉄は優勝に届かなかった

【無心の内角攻戦(4)】ロッテ―近鉄の「10・19」の第2試合、4―4で迎えた9回にけん制死をめぐってロッテの有藤道世監督が猛抗議に入りました。無死一、二塁から阿波野秀幸さんが二塁にけん制し、キャッチした大石第二朗さんが走者の古川慎一さんの背中にタッチ。これが走塁妨害ではないか、と有藤さんが飛び出してきたんです。第2試合は4時間を経過した場合には新しいイニングに入れません。そのルールは知っていたし、引き分けでは優勝はできない。すでに試合開始から3時間30分を過ぎ、絶対に勝たないといけないのに非情な時間が過ぎていきました。

抗議が長引く中、二塁まで行った仰木彬監督がその時に「もうええやろ」と言ったことに有藤さんがカチンときたらしくて9分間粘られた。あの9分がでかかった…。ロッテにしてもそれまで負け続けていたので意地があったでしょう。首位打者がかかっていた高沢秀昭さんも普通なら休ませてもいいのに出ていたし、意地があったんでしょう。それが9回の同点ソロになっていたと思うんです。

その意地があるところに仰木さんのひと言で異様な雰囲気になりました。場内は「はよやれ、はよやれ」ばかりで、何をモメているのかもわからなかったと思うし、もうええでしょうと。残り時間は20分。意地悪で無意味に延ばしているように感じました。仰木さんってふだん冷静なんでそんなこと言わない人なんです。じっと状況を見る人なのに、冷静ではいられなかったんでしょうね。

抗議が終わって阿波野さんが満塁のピンチをしのぎ、延長に突入。4時間経過まで残り5分…。10回に勝ち越さないと優勝はない。一死一塁で羽田耕一さんが二ゴロ併殺でチェンジとなり、残り3分。そして、その裏の守備についたところでタイムリミット…西武の優勝が決まりました。最後はみんな守備に行きたくないみたいな雰囲気になりますよね。勝ちがないんやからそうなりますよ。引き分けようがもう終わり。その時に大石さんが「最後までしっかり守ろう」と声をかけたと思います。

西武にわずか2厘差…どんよりですよ。負けていないのに負け。なんで引き分けで優勝できなかったんだ。その落胆はすごかったですね。帰りのバスも誰も話さないし、ウチって負けてもコソコソ話すチームなんですよ。すぐに遊びに切り替わるみたいな(笑い)。でもさすがにその時はみんな泣いていました。負けて泣くって、高校野球以来じゃないですか。大人が悔しくて涙が止まらない。残酷な結果に悔しさの持って行き場がなかった。

宿舎では祝勝会の会場が残念パーティーになりました。おかしな空気になりますよ。僕は体調が悪かったので途中で抜けましたけど、熱はあるわ、優勝逃すわで、その晩はまた死んでたと思います。僕は一軍で投げさせてもらって実質1年目が終わった。あの日以上の緊張感はないですよ。

☆やまさき・しんたろう 1966年5月19日生まれ。和歌山県新宮市出身。新宮高から84年のドラフト3位で近鉄入団。87年に一軍初登板初勝利。88年はローテ入りして13勝をマーク。10月18日のロッテ戦に勝利し「10・19」に望みをつないだ。翌89年も9勝してリーグ優勝に貢献。95年には開幕投手を務めて近鉄の実質エースとなり、10勝をマークした。98年にダイエーにFA移籍。広島、オリックスと渡り歩き、2002年を最後に引退した。その後は天理大学、天理高校の臨時コーチや少年野球の指導にあたり、スポーツ専門チャンネル「Jスポーツ」の解説も務めている。

© 株式会社東京スポーツ新聞社