【クイーンS】競馬における〝線〟の頂点 「ここしかないレース」を決めたレッドアネモス

レッドアネモス(左)の2着にはビーチサンバ(右)が入り“友道丼〟となった

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2020年クイーンS】

競馬は「点ではなく線」で考えるべき──よく聞く言い回しですし、それで正解とも思います。しかし、その馬にとっての〝線〟の頂点はどこなのか? その見極めは意外と難しいものです。

GⅠを狙うレベルの馬であれば、頂点がどこかだけでなく、そこに向かう過程もわかりやすいのですが、すべての馬がGⅠを目標にしているわけではありませんよね。ローカルのGⅢを目指している馬もいれば、現在のクラス卒業を目標としている馬もいる。グラフの形は千差万別です。

近年は叩き台と言われるレースを設定せず、いきなり頂点を狙ってくるパターンも多くなってますが、休み明けで挑む重賞レースが、すべて〝狙い定めた一戦〟と限りませんよね。馬券を買う立場からすれば、その馬の頂点はどこにあるのか? その見極めこそが最も大事なのかもしれませんね。

昨年のクイーンS。いわゆる〝友道丼〟で決まったレースですが、このレースこそがレッドアネモスにとっての〝狙い定めた一戦〟だったのではないでしょうか。1800メートルの距離、コーナー4つの平坦コース、時計を要する洋芝──。好走するための3点セットが揃い、あとは状態のみ…という状況でしたから。僕は栗東居残り組で、状態に関しては調教VTRと伝え聞くコメントのみが頼りだったんですけど、それでも戦前から〝友道丼〟があるぞ…という気配ムンムンだったんです。

「惨敗してしまった秋華賞(17着)は太め残りが原因。あの体ではさすがに動けませんでしたけど、体が絞れた春のレースは着順ほど負けていなかった。牝馬限定のGⅢなら勝ち負けになっても…の手応えは、レースの前から持っていたんですよね。ただ、食いが良くて、強い負荷を掛けても絞りにくいタイプなので、滞在では太めが残ってしまう可能性もあった。担当者がしっかりと調整し、増減なしで出走させたことが大きかったですし、ジョッキーも最内枠を生かして完璧な騎乗をしてくれた。ここしかないレースを決めたという意味で、ウチの厩舎にとっては価値の高い勝利でしたよ」とは大江助手。

2着のビーチサンバも賞金加算に待ったなしの状況で「函館の1800メートルも問題なし。勝ちにいくレース」というコメント。能力的にこっちかな、と思ったんですけど、馬連は1万3870円の万馬券。1番人気スカーレットカラーが絡んだ1万2270円の3連複も好配当なら、不満を言っては罰が当たるというものでしょう。友道厩舎は基本的に過剰な人気になりやすい厩舎ですけど、狙いを定めたときの信頼度は屈指のものがある。それをまざまざと感じた一戦でした。

レッドアネモスは今年も北海道に行っていて、巴賞を使うなんて話も聞いていたんですが、残念なことに繋靭帯炎を発症してしまい、引退という形になってしまいました。年に一度の〝狙い定めた一戦〟を使えずにターフを去るのは残念ですが、重賞を勝っている馬。繁殖としての仕事も残っています。年齢も考慮すれば、それが正解と思える判断でもあります。第2のステージを応援したいですね。

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