【東京五輪】暗闇の名将救った一通の手紙 送り主の少女、サクラセブンズで躍動

「笑顔を忘れないでプレーすることが大事」と語る春口さん=横浜市金沢区の横濱ラグビーアカデミー

 2大会連続で出場したラグビー7人制女子代表の小出深冬(25)=アルカス熊谷、金沢高出身=の奮闘を見守るのは、かつて関東学院大を6度の日本一に導いた春口広さん(72)。「苦しいときにエンジョイする姿勢を忘れないで戦ってくれている。立派になったよね」と感慨に浸った。

 歓声が響かぬスタジアム。スピードあふれる突破を見せ、今大会2トライを挙げた。

 ジャパンの中核として仲間を鼓舞する姿に感嘆の声が漏れる。「すばしっこいけど、おとなしい子だった。こんな未来を想像していなかったよ」

◆至福の時、一転…

 回顧するのは「ラグビーは遊びの延長上」と説いてきた日々だ。

 小出は春口さんが関東大監督時代の2003年に立ち上げた「横濱ラグビーアカデミー」で本格的に競技を始め、釜利谷の天然芝グラウンドで礎を築いた。黄金期をひた走る学生と、その姿に憧れてラグビーを始める少年少女たちに囲まれた至福の時。それはしかし、長く続かなかった。

 07年11月に部員の大麻事件が発覚。暗闇の中にいた春口さんを励ましたのが、当時小学6年だった小出が寄せた一通の手紙だった。

 「監督は私たちにとっても監督です」。勝利至上主義に陥り、見失っていた原点を教え子たちが気付かせてくれた。「深冬たちが楽しそうにラグビーする姿に救われたね」

◆ラグビーは楽しい

 未来を信じて子どもたちと向き合った時間が答えに導いてくれた。「ボールを抱えて、走って、パスして。みんなでトライまで向かうのって素晴らしいでしょ」。古希を過ぎた今も、横浜市内のグラウンドで小学生を相手にラグビーを教える。

 女子は1次リーグ3連敗で準々決勝進出を逃し、31日の11、12位決定戦がラストゲームとなる。

 春口さんの思いは変わらない。「しんどい状況でも深冬にはラグビーって楽しいんだよという表情を見せてほしい。画面を通じて子どもたちに魅力を届けてもらいたい」。

 託したバトンが次へとつながることを願っている。

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