【陸上】生かせなかった“地の利” 山県、多田、小池の「最高トリオ」男子100m全滅の背景

着順を確認し、思わず舌を出す山県亮太

早くも全滅だ。東京五輪陸上男子100メートル予選(31日、国立競技場)、日本記録保持者の山県亮太(29=セイコー)が10秒15の3組4着で準決勝進出を逃した。日本選手権覇者の多田修平(25=住友電工)、自己ベスト9秒98の小池祐貴(26=住友電工)も予選敗退。〝史上最高レベル〟から選出された精鋭たちに何があったのか――。

歯が立たなかった。日本勢で最初に登場したのは1組の多田。スタートからの爆発力が持ち味だが、不発に終わり10秒22の6着だった。隣のレーンだったロニー・べーカー(米国)にいきなり先行され「あまりそういう経験がなくて、見えた瞬間力んでしまった。全部悪い走りになってしまった」。続く山県、4組の小池(10秒22)は組4着ながら上位3人に入れず準決勝に進めなかった。

山県は6月の布勢スプリントで9秒95をマークし、日本記録を更新。多田も同レースで自己ベストを更新する10秒01を出した。そして、小池を含めた3人は代表選考会を兼ねた日本選手権で桐生祥秀(日本生命)、サニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)らを抑えて出場権を獲得。〝史上最高レベル〟とも言われるメンバーから代表に選出された。

では、敗因として考えられることは何なのか。

納得の調整ができていたという山県は「ちょっと何が原因だったかは、時間をおいて考えないといけない」と、すぐに答えが出てこなかった。また、大舞台の独特な雰囲気については「五輪は初めてではない」。続けて「こういう大きい試合の前は自分のやりたいレースを決めてスタートラインに立つのが自分のルール。それはできたと思う。心理的な要因は考えていない」と言いきった。

気になるのは多田の「タイムが例年に比べても異常なぐらいレベルが上がっている」とこぼしたひと言だ。2019年世界選手権で最も遅い予選通過タイムは10秒23。つまり山県はもちろん多田、小池が通過圏内にいてもおかしくない。

一方、国立競技場はモンド社(イタリア)が開発した〝高速トラック〟を採用。弾力の強いゴムを使用した上層部とハチの巣のように並べられた下層部の2層仕様が特長で、世界記録を約7割生み出してきたという。

実際、今大会の予選はトップが9秒91で最も遅くても10秒15だった。多くの選手はコロナ禍で制限された中、調整を続けてきたはず。にもかかわらず、こうした結果が出たということは、この高速トラックに順応できたかどうかが勝敗を分けたと言っていいだろう。

日本としては〝地の利〟を生かしたかったが、直近で国立を使用したのは5月の五輪テスト大会のみだった。金メダルの期待がかかる400メートルリレーでリベンジを果たすしかない。

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