上場企業の雇調金、受給額が昨秋から2倍に伸長 全体の2割超の企業が申請

 2020年4月分から雇用調整助成金(以下、雇調金)の特例措置制度が適用された。2021年6月末までに開示された上場企業の決算資料によると、雇調金の計上・申請が判明したのは807社で、上場企業全体(3,846社)の20.9%に達することがわかった。
 前回調査(2021年5月末)の770社から37社(4.8%増)増えた。このうち雇調金計上額が判明した715社では合計4666億7750万円にのぼり、5月末から230億7860万円増加(5.2%増)した。
 調査を開始した2020年11月末は2414億5420万円で、約半年間で約2倍(93.2%増)に達した。
 これは3月期決算の上場企業が、有価証券報告書で新たに記載したほか、1月期、2月期決算の企業を中心に、年度をまたいだ雇調金受給も増え、企業数、計上額ともに押し上げた。
 東京五輪の開幕(7月23日)前には、東京、沖縄で緊急事態宣言が発令され、飲食を含む小売業やサービス業、交通インフラは、再び企業活動が制限される事態となった。さらに、政府は感染者数の拡大に伴い8月2日、埼玉、千葉、神奈川、大阪にも緊急事態宣言を発令し、BtoC業種を中心とした企業の事業環境には再び不透明感が漂い始めた。消費活動への打撃は避けられず、雇調金の計上額はさらに増勢をたどるとみられる。

【計上額別】「100億円以上」が5社

 807社の計上額レンジ別は、最多は1億円未満で282社(構成比34.9%)だった。
   次いで、1億円以上5億円未満が272社(同33.7%)とともに3割を占める。
 5月末と比べた社数は、増加が10億円以上50億円未満(73社→85社)、1億円以上5億円未満(263社→272社)、1億円未満(274社→282社)。
 減少は5億円以上10億円未満(63社→61社)で、前月と同数は100億円以上(5社)と50億円以上100億円未満(10社)だった。中堅企業での追加計上が相次ぎ累積10億円以上への増加が目立った。

【業種別】小売(外食含む)・運送で社数増、小売の利用は43.1%で半数に届く勢い

 807社の業種別では、製造が321社(計上額1003億4860万円)で社数が最多だった。
 次いで、観光などのサービス(同960億3260万円)、外食を含む小売(同840億500万円)がともに150社で並んだ。全上場企業に占める利用率は、小売が43.1%(348社中150社)。次いで、運送が39.2%、サービスが28.4%と新型コロナの影響が直撃した業種で申請企業の割合が高い。製造は21.5%だった。
 計上額では航空会社・鉄道を含む運送(49社)が1469億4850万円とトップで、長引く外出自粛による需要低迷が響いた。

 コロナ禍の2020年4月以降、雇調金を申請・計上した上場企業は807社で、全上場企業の20.9%に達した。小売(外食含む)は43.1%の企業が申請している。コロナ前と同等の企業活動が難しい運送は、申請数49社で合計1469億4850万円を計上(日本航空は計上額非開示)し、新型コロナの影響が直撃した業種と、それ以外の業種で大きなかい離が生じている。
 雇調金特例措置に基づく支給もあり、コロナ禍でも失業率は低水準を持続している。リーマン・ショック直後との比較では、最も深刻化した2009年4月から20カ月連続で完全失業率は5%を超えた。一方、コロナ禍の2020年以降は、3%前後で推移している。労働集約型産業を中心に、新型コロナは業績面に大きな影響を及ぼすが、雇用面では雇調金が一定のセーフティネットの役割を果たしている。政府は、特例措置を2021年末まで延長する方針を固めた。ただ、財源不足から雇用保険料の引き上げも取り沙汰されている。
 感染拡大が続き、コロナが直撃する業種では業績回復に時間を要するため、雇調金の特例措置の継続を望む企業は少なくない。特例措置の延長に一部で反発の声も聞かれるが、冬以降の感染シナリオを織り込んだ“雇調金プラス”の雇用維持策の必要性が現実味を帯びている。

雇調金2108

調査開始以来、5月は月別で最も高い伸び率となった(TSR作成)

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