四十住さくらが「書かないで…」と言った2年前の約束 破産危機乗り越え母へ涙の金メダル

手を振る四十住さくら

家族一丸で頂点に立った。スケートボード女子パーク決勝(4日、有明アーバンスポーツパーク)で世界ランキング2位の四十住さくら(よそずみ・さくら=19、ベンヌ)が1本目に60・09点のハイスコアをマークし、悲願の金メダルを獲得。小学6年からスケボーにのめり込み、一時は遠征費で一家破産の寸前まで陥ったが、夢を信じて大願成就させた。そんななか、四十住は約2年前に明かしていた〝サプライズ大作戦〟を実行したという。その一部始終とは――。

予選4位の四十住は8人で争う決勝の5番目に登場。その1本目で、世界で数人しかできないと言われる空中で1回転半する大技「540(ファイブフォーティー)」を2度成功させてフィニッシュすると、両手を突き上げて喜びを爆発させた。60点超えのハイスコアでライバルにプレッシャーをかけ、そのまま逃げ切って頂点に輝いた。

「なんか、まだ夢の中で滑って金メダルを取った感じです。後悔ないくらい練習してきたのでそれが結果につながったと思います」

試合後に漏らした言葉に過酷なスケボー人生が凝縮されていた。兄・麗以八さんの影響でスケボーに目覚め、12歳の誕生日にマイボードを買ってもらった。母・清美さん、父・和次さんと「やるからには日本一になる」と約束し、四十住一家の奮闘が始まった。

和歌山・岩出市の自宅の庭に約180万円の特設コースを設置。高校時代は学校が終わると清美さんの車で遠方の練習場へ行って深夜まで猛練習した。コーチはつけず、母が動画を撮って一緒にフォームをチェック。遠征費の節約のために車中泊したことも数知れない。インフルエンザにかかった際は外出できないため、自宅の特設コースで練習する徹底ぶりだった。

車の年間走行距離は約5万キロ、ガソリン代や高速代を合わせると月の費用は17万円にも上った。住宅ローン返済のための貯蓄や学資保険を切り崩し、和次さんは借金まで覚悟。麗以八さんに「さくらの夢がかなうか、うちが破産するか。どっちかに賭けてもいいか」と問いかけたこともあるほどだ。

技術向上に関しては一切、妥協をしなかった。攻略したいコースが海外にしかない場合は、迷わず現地まで飛んだ。2018年12月には米ロサンゼルスへ行き、翌19年1月まで母と2人きりの〝強化合宿〟を敢行。ホテルと練習場の往復のみで観光やショッピングなど目もくれない。技の会得という目的以外の行動はすべて排除した。

同時期、両親同席のもとで四十住へインタビューを行った。取材が終わり、喫茶店に両親を残して海岸付近に撮影に向かう際、四十住は「これは書かないでほしいんですけど…」と前置きし、こんなプランを明かした。

「金メダルを取ったら母の首にかけるんです。内緒にしたいので、メダルを取るまで言わないでくださいね」

関係者によると、表彰式を終えた四十住は、今もコーチ役を務める清美さんと選手村の一角にある待機所で対面。笑顔で祝福する清美さんの首にそっと金メダルをかけ、そのまま母の胸で泣き崩れたという。清美さんも涙を流し、わが子を抱き締めて五輪のためにピンク色に染めた髪を優しくなで続けた…。こうして感謝の〝サプライズ大作戦〟は見事に成功した。

真夏に咲いた満開のさくらが、四十住一家に最高の瞬間をもたらした。

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