わずか0.65秒だけ続いたガンマ線バースト、その起源についての謎を解く鍵に

【▲ 超新星爆発寸前に短時間だけガンマ線を放出する恒星を描いた想像図(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva, Image processing: M. Zamani (NSF’s NOIRLab))】

メリーランド大学/NASAゴダード宇宙飛行センターのTomás Ahumada氏らの国際研究グループは、0.65秒という短時間だけ継続したガンマ線バースト「GRB 200826A」に関する研究成果を発表しました。同じ時間のあいだに天の川銀河から放出される全エネルギーの1400万倍ものエネルギーを放出したとされるGRB 200826Aは、ガンマ線バーストに関する新たな知見をもたらしたようです。

■ショートガンマ線バーストのなかにも超新星を起源とするものが含まれている可能性

「ガンマ線バースト」(GRB:gamma-ray burst)とは、短い時間で爆発的に放出されたガンマ線が観測される突発的な現象です。ガンマ線バーストは継続時間で区別されていて、2秒より長いものはロングガンマ線バースト、2秒より短いものはショートガンマ線バーストと呼ばれています。

数時間ほど継続することもあるロングガンマ線バーストは、大質量星の中心部が崩壊してブラックホールが誕生したとき、その両極方向に噴出した光速に近いジェットが恒星の外層を突き抜けることで発生すると考えられています。内部でブラックホールが形成された恒星は、この直後に超新星爆発(Ic型の一種)を起こして吹き飛ぶとされています。

いっぽう、ショートガンマ線バーストは、連星として誕生した恒星がどちらも中性子星へと進化した後に、中性子星どうしが合体するときに発生すると考えられています。このように、ロングガンマ線バーストとショートガンマ線バーストは、それぞれ発生する仕組みが異なると考えられてきました。

ところが、2020年8月26日に「アンドロメダ座」の方向およそ66億光年先の銀河で検出されたガンマ線バースト「GRB 200826A」は、この分類に当てはまりませんでした。GRB 200826Aの継続時間は0.65秒と短かったものの、研究グループがガンマ線バースト検出の28日後、45日後、80日後にGRB 200826Aの発生した銀河をハワイのW.M.ケック天文台から観測したところ、超新星爆発が起きたことを示す観測データが得られたというのです。研究グループは、GRB 200826Aの継続時間は超新星爆発に由来するガンマ線バーストとしては観測史上最短だったとしています。

その上で研究グループは、検出されたのはかろうじて恒星の外層を突き抜けたジェットによる短いガンマ線バーストであり、もしもジェットがさらに弱かったり恒星のサイズが大きかったりした場合、ガンマ線バーストがまったく生じなかった可能性もあるとしています。超新星爆発を起源とするガンマ線バーストは必ずしも2秒以上続くロングガンマ線バーストになるとは限らず、場合によっては中性子星を起源とするショートガンマ線バーストと同じくらい短かったり、ガンマ線バーストそのものが生じないこともあり得るというわけです。

このことは、ガンマ線バーストに関する一つの謎の解明につながるかもしれないといいます。研究グループによると、ロングガンマ線バーストおよびその起源と考えられている超新星爆発(Ic-BL型超新星)の観測された数を比べると、たまたま地球の方向へ放出されたガンマ線バーストしか検出されないという点を考慮しても、ロングガンマ線バーストのほうがずっと少ないというのです。

研究グループは、中性子星どうしの合体によって発生すると考えられてきたショートガンマ線バーストのなかにも、GRB 200826Aのように超新星を起源とするものが含まれている可能性を指摘。また、今回導き出された結論は、ほとんどの大質量星がジェットやガンマ線バーストを生成することなく超新星爆発に至るとする仮説とも矛盾しないと言及しています。もともとは合体する中性子星を探していたというAhumada氏は、継続時間が1秒に満たないGRB 200826Aが超新星を起源とする可能性が高いことに気付いた時のことを振り返り「驚きでした」とコメントしています。

▲NASAゴダード宇宙飛行センターによる解説動画(英語)▲
(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)

関連:ハッブル宇宙望遠鏡が検出したガンマ線バーストの異常、原因は中性子星合体で誕生したマグネターか

Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva, Image processing: M. Zamani (NSF’s NOIRLab)
Source: NOIRLab / NASA
文/松村武宏

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