<レスリング>【2021年東京オリンピック・特集】優勝して姉の言葉を実践、素晴らしかった表彰台からの景色!…女子62kg級・川井友香子(サントリーグループ・ジャパンビバレッジ)

 

(文=布施鋼治)

 「本当に、ずっと世界の金メダルが欲しかった。東京オリンピックで、このメダルが取れて本当にうれしい」

表彰台の一番高いところから日の丸を見つめる川井友香子

 8月4日、女子62㎏級決勝で川井友香子(サントリーグループ・ジャパンビバレッジ)は2019年世界チャンピオンのアイスルー・チニベコワ(キルギス)を4-3で撃破。オリンピック初出場で金メダルを獲得した。表彰台に立つと、5年前、一足先にリオデジャネイロでその景色を見た姉・梨紗子からの一言を思い出したという。「あんなにいい景色はないので、友香子にも見てほしい」

 それからは、「(オリンピックで優勝して登る表彰台からは)どんな景色が見られるんだろう」と思いながらキャリアを積んできた。それだけに、喜びはひとしおだった。

 「やっと見ることができた。いい景色でした」

 決勝は第1ピリオド、アクティビティタイムによる失点でチニベコワに先制される展開に。しかし、チニベコワが左手を差し場外ポイントを狙ってきても、友香子は回り込んでポイントを与えない。逆に終盤、片足タックルを仕掛けると、バランス感覚に優れたキルギスの英雄はテークダウンを防ごうとしたが、川井が粘ってグラウンドに誘い、2点を奪い返す。

 決勝まで無失点で勝ち上がってきたチニベコワにとっては、これが今大会における初失点だった。

組み手やパワーの争いでも、世界女王に引けをとらない

 川井の1点リードで迎えた第2ピリオド、逆転を狙うチニベコワはいきなり両足タックルでアタックしてきたが、友香子は慌てる素振りを見せることなく距離をとってしのぐ。続けてガッチリ組まれると、相手の重心移動を誘うようにスッと引いてチニベコワのバランスを崩した。組み手やパワーの争いになっても、2019年の世界女王に引けをとることはなかった。

1点をリードされたものの、片足タックルで逆転

 1分過ぎ、低い両足タックルで攻撃されると、川井はプッシュで押し返す。この1年でフィジカル面は飛躍的な進歩を遂げたといわれるが、それを如実に示す攻防だった。不安要素が見つからない。

 2分過ぎ、中途半端にタックルにきた相手をがぶったと思いきや、サイドに回り相手の様子を見たうえで友香子はバックを取る。“ダメ押し”ともいえるこの2点は大きかった。

 それでも、キルギス史上初のオリンピック金メダリストを目指すチニベコワは勝負を諦めない。勝てば、日本円にして1000万円程度の報奨金が出ることを考えたら、それも当然か。友香子の首を抱え込むようにして前へ。もつれてグラウンドの攻防になった際、クルリと回されたら危ない場面もあったが、川井は両手と左ひざをつき、それを回避した。

 終了間際、チニベコワが初めて片足タックルを決め2点を取り返し、さらに場外押し出しを狙ったところで試合は終了した。

川井とチニベコワは、“初対戦”だった!

 4-3。スコア的には僅差の判定ながら、勝ちは勝ち。この勝ち方は、この日始まった女子57kg級、姉・梨紗子とヘレン・マルーリスの準決勝からインスパイアされたものだった。「点差の開かない試合だったけど、たとえそうであってもとにかく勝てばいい。そういう気持ちで戦っていました」

世界女王の粘りに1点差となったが、見事に勝利を手にした

 過去、川井はチニベコワに1勝2敗と負け越しているが、試合後は「今までの自分ではなかった」と振り返る。「この1年で自分は変われたと思うし、チニベコワとは初めて闘う気持ちで闘っていました」

 これまで世界選手権では2位が最高だった。オリンピックで初めて世界の頂点を極めたことになる。このシチュエーションは、リオデジャネイロ・オリンピックで初めて世界の頂上に立ったときの姉と一緒。家族思いの川井は安堵の表情を浮かべた。

 「今まで(世界選手権では)銀メダルと銅メダルしか取れなかった。やっと家族に金メダルを見せることができる」

 ホテルの一室でこの一戦を観戦していた川井ファミリーは、満面の笑みとともに、次女の快挙を祝福した。勝利のバトンは翌日(5日)決勝を控えた川井梨紗子に渡された。

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