【侍ジャパン】「天国のノムさんもきっと喜んでいる」かつての師が教え子を祝福

王貞治氏に祝福され感極まる稲葉篤紀監督

東京五輪・野球日本代表の侍ジャパンが、7日の米国戦(横浜)に2―0で勝ち、悲願の金メダルを手にした。3回に村上(ヤクルト)のソロ本塁打で先制し、6投手のリレーで米国打線をシャットアウト。8回に決定的な追加点を奪い、そのまま逃げ切った。横浜の夜空に5度、宙を舞った稲葉監督を、ヤクルト時代のコーチで本紙評論家の伊勢孝夫氏が、祝福した。

稲葉監督が率いる侍ジャパンの5試合を、すべて見させてもらった。決勝は継投もうまくいったし、村上の本塁打も見事だった。稲葉にとってはこれまで、ずいぶん耳の痛い指摘もさせてもらったが「あいつらしいな」という采配もあったし、これまで経験したことのないであろう重圧のなかで、チームをまとめることは大変だったろう。本当にお疲れ様。そして金メダルおめでとう。

私がコーチをしていたころの、ヤクルト時代の稲葉は「ID野球の申し子」という感じの選手ではなかった。相手投手の配球の傾向などは、宮本慎也のほうが積極的に聞いてきたし、稲葉は性格的にコーチにアドバイスを求めるというよりは「とにかく自分で何とかしよう」とするタイプ。自分が納得できるまで、ヒジを痛めているのに3時間でも4時間でもひたすらバットを振っていた姿を覚えているし、考えすぎてスランプが長引くこともあったけど、自己中心的なところはなく、周囲に気配りができるいい男だった。グラウンド内での稲葉ほど、優等生だった選手はいない。

生前のノムさんは「将来、稲葉と宮本が監督として対戦する試合を見てみたい」とよく話していたし、当時から後輩の選手には宮本よりも慕われていた。今のチームを見ていても、稲葉が選手から信頼されているのは分かる。ただ、バントのサインを出すべきところで出せなかったり、結果の出ていない選手を使ったりと、選手に気をつかいすぎて遠慮したり、非情になり切れないところなんかは、まさに稲葉らしかった。それでも、以前の稲葉だったら一人で抱え込んで悩んでいたのだろうが、周囲のコーチたちもしっかりサポートしてくれた。私のような年寄りがグチグチ指摘したような采配では、チームはうまくまわらないのかもしれない。

今回の結果はヤクルトOBとしても、本当に誇らしく思っている。天国のノムさんもきっと喜んでくれているだろう。
(本紙評論家)

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