【F1第11戦無線レビュー(2)】「このアウトラップが勝負を決めるぞ」首位を守るべくエンジニアがオコンへ発破

 2021年F1第11戦ハンガリーGPは、レース序盤の赤旗を経て、スタンディングスタートで再開を迎えた。唯一グリッドからスタートしたルイス・ハミルトンは他車より1周遅れでタイヤを交換し、そこから猛追を見せる。そしてレース終盤、チームメイトの優勝をアシストすべく、フェルナンド・アロンソが巧みなドライビングを見せた。そんなハンガリーGPを無線とともに振り返る

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 1周遅れでピットインしたことで最後尾まで後退したルイス・ハミルトン(メルセデス)だったが、そこから怒涛の追い上げを見せ、10周目には13番手に。とはいえ本人は「(先行車の乱流で)とても近寄れないよ」と、不満を吐きながらの追走だった。

 一方、満身創痍のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は、14周目に半ば強引にミック・シューマッハー(ハース)を抜いて、10番手に上がった。

ジャンピエロ・ランビアーゼ:悪くないぞ、半分しかないクルマにしてはね

2021年F1第11戦ハンガリーGP ミック・シューマッハー(ハース)&レッドブル・ホンダ(マックス・フェルスタッペン)

 ハミルトンは16周目には11番手に。しかし再スタート後に履いた中古ミディアムはそろそろ限界に来ていた。

ハミルトン:グリップがない
ピーター・ボニントン:了解だ、ルイス。左フロントが依然として温度が高い
ハミルトン:他の連中に全然近寄れないよ

 首位のエステバン・オコン(アルピーヌ)は2番手セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)に1秒ちょっとまで迫られながらも、余裕を持ってレースを支配しているように見える。担当エンジニアのジョシュ・ペケットから指示が飛んだ。

ペケット:プランA+5、プランA+5だ

 フリーエアで走っているオコンは、新品ミディアムをしっかり持たせている。ハードタイヤに交換するタイミングを、5周遅らせても大丈夫という判断だった。

2021年F1第11戦ハンガリーGP エステバン・オコン(アルピーヌ)&セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)

 19周目、10番手のハミルトンがピットイン。

ランビアーゼ:マックス、ここでプッシュだ!

 9番手フェルスタッペン、そして8番手ダニエル・リカルド(マクラーレン)も、1周後にハミルトンの後を追う。しかしフリーエアでコース復帰したハミルトンはセクター2、3で最速タイムを叩き出し、このふたりをアンダーカット。さらにジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)も抜いて、9番手まで順位を上げた。

 ハミルトンの猛追を見て、カルロス・サインツ(フェラーリ)の担当エンジニア、リカルド・アダミがちょっと浮き足立ったようだ。サインツが宥めるように言う。

サインツ:ちょっと落ち着こう
アダミ:ボックス、ボックスだ
サインツ:ちょっと待ってくれ、まだペースはあるんだから

 27周目にニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)を抜いて7番手に上がったハミルトン。自分が今レースをどれぐらい走り終えたのか、一瞬わからなくなったようだった。

ハミルトン:もう43周目なのか?!
ボノ:それは残りの周回数だよ、ルイス

 一方、3番手サインツを追うフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)は、空模様を気にしていた。

アロンソ:空が真っ黒だぞ
カレル・ルース:了解した。でもレーダーには、何も映ってない

 30周目にピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)がピットイン、ハミルトンは直後に角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)を抜いて5番手に。表彰台も視野に入ってきた。

ハミルトン:ターゲットは?
ボノ:表彰台を狙っている。簡単じゃないけどね
ハミルトン:前の連中は、もう1回ピットかな?
ボノ:そのはずだ

 ボニントンが言う通り、36周目に2番手ベッテルがアンダーカットを狙う。しかしタイヤ交換にやや手間取ったこともあって、37周目にピットインしたオコンはベッテルを僅差で抑えて、コース復帰に成功する。

ペケット:素晴らしい。このアウトラップが勝負を決めるぞ

2021年F1第11戦ハンガリーGP セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)
2021年F1第11戦ハンガリーGP セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)の前でコースに戻ったエステバン・オコン(アルピーヌ)

 ベッテルの猛追をしのいで、オコンは首位をキープした。一方、12番手のフェルスタッペンは、すぐ前のリカルドを抜きあぐねていた。

ランビアーゼ:マシンバランスをレポートしてくれるかな
フェルスタッペン:バランスどうこうじゃないね。壊れてるんだから。オーバーステアとアンダーステアが交互に来てる

 3番手を走るサインツ陣営は、背後のハミルトンが気になってしょうがない。

サインツ:(ハミルトンは)もう1回ピットインするんじゃないかな
アダミ:そうするとアロンソの後ろになる。ステイアウトで最後まで行くにちがいない

 いったんは、「タイヤがちょっと良くなっている」と言っていたハミルトンだったが、ライバルたちを撹乱させる無線だったのか、47周目にミディアムタイヤに交換。これでフェルナンド・アロンソの背後、5番手に後退した。

ハミルトン:今は何番手? あと何台抜けばいいんだ?
ボノ:あと4台だ。そうすれば優勝だ。オコンは25秒前で、ラップペースは22秒8だ
ハミルトン:4台もかい?

 ここでトト・ウォルフ代表が割り込んできた。

ウォルフ:ルイス、勝てるぞ

 しかしその前に、アロンソという高い壁が立ちはだかる。ハミルトンはアロンソに激しいバトルを仕掛ける。しかしアロンソが老獪さを存分に発揮し、なかなか抜かせない。はるかにペースに勝るハミルトンを10周にわたってガードし続けた。

ハミルトン:もっとパワーが必要だ

 63周目の攻防では、ハミルトンが思わずこんなことを口走った。

ハミルトン:見ただろう? 僕の前に入ってきた!
ボノ:見たよ、ルイス
ハミルトン:あのスピードだと、ものすごく危ない

 しかしさすがのアロンソも65周目のターン1でミスをし、オーバーテイクを許してしまう。だがここまで身体を張って猛攻をしのいだことで、ハミルトンが首位オコンに追いつくのはほぼ絶望的になった。

 オコンはベッテルの猛攻もしのぎ、初優勝を果たした。

ベッテル:何度も何度もトライした。レース中、ずっとね。後ろについていくのは、本当にキツかったよ。みんな、申し訳ない。
ベッテル:レース中、僕の方がずっとペースは速かった。でもエステバンは、一度もミスしなかった。初優勝にふさわしいよ

オコン:なんて言ったらいいんだ! ルノーが復帰して初めての勝利だ。フェルナンドにもおめでとうと言いたい。この勝利は彼のおかげだよ

 フランスのチームでフランス人ドライバーが優勝したのは、1983年オーストリアGPでのルノーのアラン・プロスト以来の快挙となった。

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