小田急刺傷男の戦慄テロ計画…「渋谷スクランブル交差点爆破したかった」明るい人気者はなぜ豹変した?

渋谷駅で爆破事件が起きていたら…

東京都世田谷区の小田急線電車内で乗客10人が切り付けられるなどした事件で、殺人未遂容疑で逮捕された川崎市多摩区の職業不詳・対馬悠介容疑者(36)が「以前から電車の大量殺人を考えていた。灯油を持って行きたかったが用意できなかった」と供述していることが9日、分かった。学生時代は「明るい人気者だった」という対馬容疑者はなぜ豹変したのか。専門家が分析した。

対馬容疑者は事件当日の6日昼、東京都新宿区の食料品店で万引を疑われて女性店員に110番され、警視庁の任意聴取を受け帰宅。「店員を殺そうと思ったが、店が閉まっていると気付き、電車に切り替えた」。逮捕後に「約6年前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思った。誰でもよかった」と供述している。

さらに、「幸せそうなカップルが歩いている渋谷のスクランブル交差点を爆破しようと考えていた」とも話していることも分かった。

そんな対馬容疑者について、高校時代に親しかった同級生(35)は「明るい人気者」だったと話す。だが、20代前半ごろには「特に定職には就かずにナンパ師をしている」と明かされ、「性格が変わったのかと思った」と振り返る。

幼少期を東京都世田谷区で過ごした対馬容疑者は、目黒区にあった都立高に進学した。卒業後、中央大理工学部に進んだが中退し、コンビニやパン工場などを転々としていたとみられる。

同級生とは時折、連絡を取り合う仲で、20代前半ごろに再会した際には「コンビニなどでアルバイトをしながら三軒茶屋とか複数の駅で女性をナンパしている。女性が好きだし、何百人と声をかけてうまくいくのは数人だが、自分を試す意味もある」と軽い口調で話していたという。

日米で連続殺人犯、大量殺人犯など数多くの凶悪犯と直接やりとりしてきた国際社会病理学者で、桐蔭横浜大学の阿部憲仁教授はこう語る。

「大量殺人を犯すタイプは『①いつも孤立していて人の輪に入れないタイプ』と『②必要以上に周りに気を使ういい人タイプ』の2つがその典型である。対馬容疑者は②のタイプに当たる」
こうした重大事件の犯人は「幼少期の母親との愛着障害」と「長年の社会的軋轢(あつれき)」と「直前の引き金」の組み合わせ力学によって生まれるという。

「②のタイプは、母親からの愛情が不安定、もしくは母親が条件付きでしか愛情を与えてくれないため、気に入られようとして必要以上に理想的な子供を演じる。しかし、そのために“本来の自分”を殺し続け、社会に出てからもいい人を演じ続ける。一見、人の輪に入っているように見えるものの、本当の意味での社会との“接点”を築くことができず、職を転々とし、そんな社会すべてが無意味に思え、結局は①のタイプと同様の大量殺人的行為に至るのです」と阿部氏。

負のスパイラルから抜け出せない対馬容疑者の心境が「自分はくそみたいな人生。不幸は周りの人のせい」という供述に凝縮されているのかもしれない。

また、対馬容疑者は小田急沿線のアパートで一人暮らししていた。阿部氏は「一人暮らしは他者とのコミュニケーションが皆無なため、自己の思い込みが肥大化しやすい。アメリカの銃乱射犯の平均年齢が32・6歳であることからもうかがえるように、多くの場合、幼少期の愛着障害から長い年数にわたる社会との摩擦を経験した後、そのストレスの蓄積があって初めて犯行に及ぶんです」と言う。

今回の事件は電車内で起きた。サラリーマンにとって睡眠の場でありつつも、不特定多数が出入りでき、何かが起きた時には逃げ場のない場所だと判明してしまった。

阿部氏は「今のアメリカでは、ニューヨーク市の地下鉄での暴力事件は急増しており、車内を安全に感じる者は26%、駅構内を安全に感じる者は34%しかいない。アメリカ社会の後追いをしている日本においても、すし詰め状態で有名な電車はいつでも複数のターゲットが存在し、誰もがノーチェックで乗車できるため、この先、警戒が必要とされるでしょう」と指摘している。

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