【高校野球】9回無死満塁をKKK斬り 甲子園で覚醒する日大山形の剛腕は「150キロ出すのが目標」

9回途中からリリーフ登板した日大山形・滝口琉偉【写真:共同通信社】

開幕戦に登場の日大山形、米子東を破り2013年以来の勝利

第103回全国高校野球選手権大会が10日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕した。昨年の第102回大会は新型コロナウイルス感染拡大のため中止となり、2年ぶりに各地方大会を勝ち抜いた球児が甲子園に集まってきた。4年ぶり18回目の出場となる日大山形は、米子東(鳥取)を4-1で破り、2013年以来の白星。9回途中からリリーフした滝口琉偉投手(3年)が、無死満塁のピンチから三者連続三振を奪うという離れ業で、チームを勢いづけた。

台風一過の甲子園に吹いた強い風が、滝口の背中を押した。日大山形は4点リードの9回、先発の齋藤堅史投手(3年)に疲れの色が見えた。先頭からの4連打で米子東に1点を与え、なお無死満塁。荒木準也監督は滝口へのスイッチを決断した。

5回からブルペンで準備をしていた滝口は「(登板が)無死満塁とは思っていませんでした……」と、さすがにここまでの大ピンチは想定していなかった。点差は3点。「まだ余裕があったので、全力を出そうと集中することができました」と、状況に目をやるよりも、自分のボールを投げることを優先した。

米子東は1番からの上位打線に戻るというタイミング。右腕からの剛球がうなった、岩崎昭英遊撃手(3年)を145キロの内角直球で見逃し三振、藪本鉄平投手(2年)を118キロのスライダーで空振り三振、そして舩木佑投手(3年)を145キロの直球で空振り三振に仕留めると、両手をパチンと大きく叩き、吠えた。気迫がほとばしった。

荒木監督は「あの(満塁の)場面で上げないといけないのは本当につらい」と苦しい選択を振り返る一方「でも、マウンドで集中力を発揮できる選手なので、何とか最初のアウトをと思っていた。まさか三者三振とは思っていませんでしたけど」。期待を遥かに超えた力投で、チームを勢いづけた。

滝口は空白の時期を経て“クローザー”を務めるようになった。昨年12月に右肘を手術し、軽く投げ出したのが今年3月。東北の厳い冬を「体幹の強化や走り込みなど、自分の体を見つめなおすいい時間でした」と、苦しいはずの時間も有意義なものに変えた。山形県大会では外野手も兼任し背番号9。指揮官の「投手として行く場面のほうが多いはず。試合の後半には、強い球で目先を変えられる投手が欲しいので」という決断で背番号が10に変わり、出番を待つ。

この日投げた147キロが自己最速だ。憧れの甲子園のマウンドは「凄く投げやすい球場です。どんどん押していけたのが良かった」とプラスアルファの力をくれた。「甲子園で150キロ出すことが目標です」。そのチャンスは、次もある。

滝口と対照的な先発・齋藤も「甲子園は本当に投げやすかった」

9回に大ピンチを招いて降板した齋藤は、滝口に絶大な信頼を寄せている。「自分にはない球速がある投手。最後は滝口と、信頼して任せられます」と交代を告げられたシーンも、さも当然のように受け入れる。ただ、続けて「自分がエースなので、本当は投げ切らないといけないところですけど……」。先発としてイニングを重ねることを考え、マウンドに上がっている。投げ切れなかったことには、ちょっぴり後悔がある。

滝口と対照的に力を抜いたフォームから、ボールを低めに集めていくのが持ち味だ。直球は130キロ前後で、制球とリズムが命。「県大会では凄く力んでしまったので、修正できたと思います」とこの舞台への調整も万全だ。

走者は許しても、得点は与えない。1回、2死満塁を三飛でしのぎ、5回から7回までは続けて得点圏の走者を背負った。それでも「力を入れすぎてはもたない。打ち取るところは打ち取るのが自分のスタイル」というぶれない軸が、好投につながった。9回途中まで、被安打12本ながら1失点。自分にできることに徹した結果の勝利だった。

恒例行事の、開幕前の甲子園練習がないこの夏、さらに開会式直後の試合を引いたことで「アップのあと時間が空きますし、体が冷えてしまうのが不安でした」と未知の要素もあった。固くなりがちなハートを柔らかくしてくれたのが、歌手、俳優の山崎育三郎さんが試合前に行った大会歌「栄冠は君に輝く」の独唱。「テレビで見ていた人を間近に見て、感動しました。上手くほぐれたのかな」と実力を発揮する助けになってくれた。

「緊張するのかなと思ったけど、本当に投げやすかった」齋藤もまた、滝口と同じく甲子園のマウンドの投げやすさを強調した。昨年の先輩たちが目指すこともできなかった場所で、思いを感じながら投げる。2013年に4強入りしたチームとの類似点を問われた荒木監督は「うちは必ず守り中心のチームなので、そこは似ているかもしれませんね」。剛と柔の右腕コンビが、暑い夏のマウンドを死守する。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

© 株式会社Creative2