【レースフォーカス】レッドブルリンクから世界を駆け抜けたロッシの引退会見/MotoGP第10戦スティリアGP

 シーズン後半戦最初のレースとなったMotoGP第10戦スティリアGPは、大きな話題とともに幕を開けた。バレンティーノ・ロッシ(ペトロナス・ヤマハSRT)の引退発表だ。
 
 以前より、来季の去就についてはサマーブレイク中に決断すると公言していたロッシ。ロッシが下した決断は、2021年シーズン限りでMotoGPから引退するというものだった。木曜日に記者会見に臨んだロッシは、「僕は、今シーズンで引退することに決めた」と切り出した。
 
「来年レースをしないのは、とても難しく、とても悲しい。僕はもう30年くらいバイクレースを続けてきたんだからね。来年、僕の生活は一変するだろう。長い長い旅路だったけれど、素晴らしく、本当に楽しかったよ。26年間もの間、世界選手権に参戦したんだ。素晴らしかった。すべての仲間たち、僕を助けてくれた人たちと、忘れられない時間を過ごしたんだ。だから……、これ以上、何も言うことはないよ」

「僕は長いキャリアを持ち、たくさんのレースで勝てた。なかでも忘れられない瞬間や、優勝があり、そこには純粋な喜びがあった。1週間笑ってさらにその後、まだ笑っていたこともあった。どうしてだろうと思いながら、レースを思い出すこともある」

「そうだね、この決断を下すのは難しかったよ。けれどね、スポーツにおいて最終的には結果がすべてなんだ。だから、これは正しい決断だと思うんだ。MotoGPの自分のチームで、義父弟(ルカ・マリーニ)のチームメイトとしてレースを続けるという選択肢もあったから、難しいところだった。でも、これでよかったと思う……。僕にはまだシーズン後半戦がある。最終戦を迎えたとき、もっと厳しい状況だろうとも思う。でも、今は、みんなに僕の決断を伝えるよ。僕のキャリアについて、文句は言えないさ!」

 シーズンが始まったとき、ロッシはまだ現役を続けたいと思っていた。しかし同時に、ロッシ自身が語るように、「スポーツにおいては結果がすべて」だとも考えていた。そして、シーズン前半戦の結果はロッシが期待したようなものではなかった。
 
「レースを重ねるごとに、(引退を)考えるようになっていったんだ」

 ロッシはこれまでのキャリアのなかで、ポイントとなったシーズンをこう振り返っている。

「長いキャリアの中で、難しい時間はたくさんあったよ。忘れられない瞬間だ。僕は3つのチャンピオンシップで戦ってきた。キャリアの中で最も重要だったのは2001年だ。500ccクラスの最終年でチャンピオンを獲得したシーズンだね。それから、2004年。ヤマハに移籍して初めてのシーズンでチャンピオンに輝いた。そして2008年。MotoGPで5連覇したあとに、2年間で2度もチャンピオンを逃した。でも、ブリヂストンにタイヤが変わって、(ホルヘ・)ロレンソや(ケーシー・)ストーナー、(ダニ・)ペドロサと戦ってトップに返り咲くことができたんだ。これらが僕のキャリアの中でも重要だったね」

 ロッシが引退を表明した日、彼の元にはたくさんのメッセージが届いたという。そのなかにはかつてのライバルからのメッセージも混じっていた。
 
「昨日はとても感動的で、特に夜はすごかったよ」と、金曜日の取材のなかでロッシは明かしていた。

「ものすごくたくさんのメッセージを世界中からもらった。近しい友達、F1ドライバーやサッカー選手、それから昔のライバルからもメッセージをもらったんだ。ストーナー、(マックス・)ビアッジ、ロレンソ、ドヴィ(アンドレア・ドヴィツィオーゾ)……。とてもうれしかったよ」

 1996年、ロードレース世界選手権に参戦を開始してから26年目、世界のトップで走り続け、注目を集め、多くのファンに愛されてきたバレンティーノ・ロッシがキャリアに幕を下ろそうとしている。最後のシーズンとなる2021年、ロッシの1戦1戦を見守っていきたい。
 

■ペドロサ、約3年ぶりのレース参戦

 スティリアGPにはKTMのテストライダー、ダニ・ペドロサが参戦した。これまでテストに集中してきたペドロサが、2018年最終戦バレンシアGP以来の実戦に身を投じたのだ。
 
 ペドロサがレース参戦を決断したのは、実戦だからこそ感じられるもの、テストで再現することが難しいものを得るためだった。
 
「今のところ僕たちはすごく順調に前進してきた。でも、今、僕たちが(テストで)ライダーがレース中に直面している状況を再現するのは難しいみたいだ。例えば、彼らはレースでオーバーテイクするのがすごく難しい、つまり、予選をかなりよくしないといけない、と訴えている。僕たちはそれを理解しようと努めている。テストでその問題と向き合うために、ライダーがレースウイークでどのように考えているのかを感じ取り、(レースでの)最新の情報を得ようとしているんだ」
 
 長くレースを離れていたにもかかわらず、ペドロサの速さは健在だった。テストライダーとしてバイクを走らせているとはいえ、テストとレースウイークでは流れも集中すべきところも同じではない。それでもペドロサは、予選ではQ2に進出できなかったものの、ほとんどのセッションでトップから1秒以内のタイムをマークしていたのである。
 
 ただ、決勝レースではアクシデントが発生した。1度目のスタートから3周目、3コーナーでペドロサが転倒し、そのバイクにロレンツォ・サバドーリ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)が突っ込んでクラッシュ。バイクが炎上したのだ。ペドロサは無事だったが、サバドーリは右足首を骨折し、9日には手術を受けている。今週末のレースは欠場し、第12戦イギリスGPの復帰を目指すという。このアクシデントにより、レースは赤旗中断となった。
 
「どうしてこのようなクラッシュが起きたのかわからないんだ」と、ペドロサは転倒について語っている。

「3周目、イン側のラインに乗ってしまったのかもしれない。それとも、まだタイヤの右側が冷えていたのかも。僕はフロントにハードを履いていて、今日は(この週末のなかでも)気温が低めだったから。コーナーに入っていき、バンク角が最大になったところでバイクを起こしたけれど、転倒してしまった。(バイクが)コースの真ん中でスピンしてしまい、不運にもサバドーリが僕のバイクにぶつかって、ケガをしてしまった。彼には申し訳ないことをした。僕は幸運(にも無事)だった。僕のキャリアのなかでも、こういうクラッシュは初めてだと思う。バイクが通過していくのを見て、少しショックを受けたよ」

 ペドロサはバイクを乗り換え、再開したレースに臨んだ。スペアバイクはウエット用にセッティングされたものだったという。
 
「最初はあまり集中できていなかったと思う。グリッドについたときには、スタート・デバイスのボタンを押すのを忘れてしまった。だからスタートはうまくいかなくて、序盤の数周でポジションを落としてしまったんだ」

 それでもその後はペースを安定させ、11位でチェッカー。フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が結果に3秒加算のペナルティを受けたために最終結果は10位だった。
 
「レースを楽しんだよ。この週末の結果にはとても満足なんだ」と語ったペドロサ。今回の参戦がKTMの今後の開発にどうつながっていくのか、楽しみなところだ。

■中上、追い上げの5位

 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)は10番グリッドから決勝レースを迎えた。土曜日にはバイクのフィーリングに苦戦していたというが、レースに向けた変更が功を奏した。序盤は7番手、終盤には5番手にポジションを上げると、最終ラップでは前を走っていた4番手のヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)をパス。惜しくも後方につけていたブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)に交わされたが、5位フィニッシュを果たした。
 
「レースでのパフォーマンスには満足しています。序盤から6番手、7番手でレースできましたからね。ただ、レース中、ちょっと燃費が心配でした。レース中に燃費の警告があったんです。なので、マッピングを切り替えないといけませんでした。でも、マネジメントできました。パフォーマンスには満足していますよ」

「来週に向けて、電子制御やバイクのフィーリングについて、改善しないといけない部分がありますが、とてもいいレースだったと思います」

 次戦は引き続きレッドブルリンクでの2戦目。第11戦オーストリアGPとして開催される。連戦の2戦目は、全体的に差が縮まるために僅差になることが多い。今週末のレースはどのような展開を見せるだろうか。

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