最後の被爆地に

 長崎原爆の日の9日付の紙面。東京五輪の閉幕を華やかに伝えるページに交じって、丸い点だけでできた面があった。その数、1万3867個。よく見ると左端の2個だけが赤い▲黒い丸は世界に存在する核弾頭の数を、赤い丸は広島と長崎に投下された原爆を表現している。「何だこれ、って、きっと新聞をめくる手が止まるはず」。原爆の日の朝、想像と行動と挑戦の大切さを伝えたい-本紙の広告マンがそんな願いを込めた▲紙面をぎっしりと埋めたドット。私たちの暮らす「今」が、依然として核の危険や恐怖と隣り合わせにあることを実感させる▲ただ、思う。こんなにたくさんの核兵器をこしらえてしまった人類は、しかし、76年前の8月9日を最後にその使用を思いとどまり続けている。被爆地の経験と「ノーモア」の声が最後のボタンを押させずに来た▲今年の長崎平和宣言は「長崎を最後の被爆地に」と訴えた。地球に核兵器が存在する限り、長崎は“今のところ最後の被爆地”でしかない。使わない物は要らない、人間がつくったものは人間の手でなくすしかない-素朴な理屈に力を込めたい▲1日に1個ずつ廃棄する計算でも38年かかる。行くべき道は遠い。だけど、諦めてはいけない。たかだか新聞の2ページ分にすっぽり収まる数なのだ。(智)

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