メキシコ代表右腕は何しに茨城へ 侍ジャパンも封じたバルガスの“日本愛”

茨城アストロプラネッツのセサル・バルガス【写真:千葉麗美】

東京五輪・日本戦で1回を12球で無失点、来日のきっかけは「3年前に来たとき」

侍ジャパンの37年ぶりとなる悲願の金メダルで幕を閉じた東京五輪。その激闘をメキシコ代表として戦った男が、一足早く茨城に帰ってきた。のどかな風景と青空の広がる笠間市民球場で、圧倒的な存在感を放つのがセサル・バルガス投手だ。【工藤慶大】

188センチ、107キロの大柄な体格に、特徴的な長髪。ただものではないオーラを放つが、実際に実績も申し分ない。2009年に17歳でヤンキースと契約を結ぶと、2016年にパドレスでメジャーデビュー。勝利は掴めなかったが7試合に先発登板した。その後は3Aやメキシカンリーグのモンテレイで活躍。2019年には「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2019」でメキシコ代表として来日も果たした。

そんな大物助っ人右腕がルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツに加入するというニュースが流れたのが2020年12月。ラモン・カブレラ、ダリエル・アルバレス(現ソフトバンク)の入団も決まり、独立リーグに元メジャーリーガーが3人も加わる異例の事態となった。では、なぜ実績もあり母国でもスター選手の彼らがわざわざ茨城にやってきたのだろうか。

日本を意識したきっかけを「3年前に日本に来たときだった」と振り返ったバルガス。侍ジャパンと親善試合を行うためにやってきた大阪で心を動かされる出来事があったというのだ。

笠間市民球場での練習に合流したセサル・バルガス【写真:千葉麗美】

5勝2敗、防御率1.60とBCリーグでは無双状態「今は投げているのが楽しい」

「年配の方がすごくサポートしてくれた。何かのために一所懸命に頑張る姿を見て、とても感銘を受けたんだ。僕もその中の一員になりたいし、なれたらなと思った。人も優しいし、文化もリスペクトしている」

それから2年の歳月が流れ、右腕は本当に日本の球団の一員になった。海外野球を熟知する茨城の色川冬馬GMからオファーを受け、「すごく丁寧だったので、安心して来ることができたんだ」と快諾。当然、「キャリアでさらに上を目指すという中でNPBは常に選択肢にある」と、入団後も向上心は忘れない。ここまで11試合(7先発)で5勝2敗、防御率1.60とBCリーグでは無双状態だ。

「日本に来て発見したこと、やっている取り組みもある。どんどんよくしていきたい中で、問題があるところを相談して改善しているところ。それがうまくハマってきて、今は投げているのが楽しい」と話す表情からは充実ぶりが伝わってくる。特に足の上げ方、体重の移動の仕方、体の開く角度などのメカニクスが大きく改善されたという。

その充実ぶりからか東京五輪のメキシコ代表にも選出。7月9日には代表のキャンプに専念するため茨城を一時退団して古巣モンテレイと契約すると、オープニングラウンド・グループAの第2戦、侍ジャパンを相手に1イニングを12球で無失点に封じた。メキシコは続くノックアウトステージで敗れて敗退となったが、“自信”を手土産に8月3日に茨城と再契約し、笠間へと舞い戻った。

13日にはNPBが再開し、金メダルを取った侍戦士たちの活躍が日本各地から聞こえてくるだろう。それと同時に、茨城で戦う“日本を愛する”メキシコ戦士にも注目してみてはいかがだろうか。(工藤慶大 / Keita Kudo)

© 株式会社Creative2