東京五輪での舞台裏の駆け引き メキシコ右腕が侍ジャパン村上を仕留めた“前の一球”

東京五輪メキシコ代表に選出されたBC茨城のセサル・バルガス【写真:千葉麗美】

メキシコ代表のバルガスがBC茨城に復帰、侍ジャパンとの対戦を振り返る

東京五輪メキシコ代表のセサル・バルガス投手が五輪での戦いを終え、ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツに復帰した。世界の舞台を経験して一回り頼もしくなった男は、オープニングラウンド・グループAの第2戦、侍ジャパンとの対戦を振り返った。自信に満ち溢れた表情で、新たな一歩を踏み出した。【工藤慶大】

2016年、メジャーリーグのパドレスで7試合に先発した経験を持つ右腕は、今季から茨城に加入すると前評判に違わぬ活躍。188センチ、107キロの大柄な体格から、150キロを超える直球とスライダーを繰り出し、10試合で5勝2敗、防御率1.64と無双状態だった。

すると、その活躍が海を渡った母国からも目に留まったのか、代表に選出される。7月9日には代表のキャンプに専念するため茨城を一時退団。古巣のメキシカンリーグ・モンテレイと契約し、東京五輪で侍ジャパンとの試合での出番を待った。

侍ジャパンが3点リードの6回表。これ以上は失点の許されないメキシコのマウンドに上がると、先頭打者は村上宗隆内野手(ヤクルト)。「彼がいいバッターなのは知っているし警戒はしていたけども、誰が相手でも関係ない。自分のピッチング、仕事をするだけだから。そこに徹している」と、振り返った対戦に元メジャーの技術と自信が凝縮されていた。

マウンド上では冷静に「相手のバッターを見て、次に何を投げるかということ、戦略を考える」というバルガス。この日は大前提として、「真ん中から高めに投げたら打たれる、とわかっていたので、左右の低めに丁寧に投げることを意識した」と、直球を低めに集めて、2-2と追い込むことに成功した。

村上から三振を奪うも「その時点でスライダ―が決まるとわかっていた」

そこで投じたのが、通称「縦スライダー」と呼ばれる落差の大きな変化球。村上は空振り三振に倒れたが、右腕は「その時点で僕のスライダーが決まることはわかっていた」と不敵な笑みを浮かべる。勝負の肝はバットが空を切った前の1球にあったというのだ。

「カットボールの後のスライダーだ。その前にちょっとカットボールっぽい真っすぐを同じところに投げている。だからそこにすぐにもっと大きいスライダーを投げた。そして三振を取れた」

その後も、絶対的な信頼を置くスライダーを軸に、甲斐を三ゴロ、山田も遊ゴロと侍ジャパン打線をわずか12球で完全に封じた。メキシコは続くノックアウトステージで惜しくも敗れて敗退となったが、「1イニングだけでしたけど、自分の投球を証明できた」と日本のトップ選手にも通用すると自信を深めた。

一足早く“夢の舞台”から去ることになってしまったバルガスだが、7日の決勝を「いい試合になると思う。(どちらが勝つかは)とても難しいです」と楽しみにしているという。

「米国と日本の野球はまったく別のタイプ。米国はやはりりパワーを使ってくる。日本はホームランを狙うというよりはコンタクト、正確に当ててくる、つないでくる野球」とキーポイントを挙げ、3-2、2-1、1-0とロースコアの展開を予想した。

残すところ3位決定戦と決勝の2試合となった東京五輪の野球競技。国のプライドを背負った白熱の展開の裏で行われている、一球一球の高度な駆け引きにも注目したい。(工藤慶大 / Keita Kudo)

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