【高校野球】いよいよ聖地でベールを脱ぐ157km右腕 スカウトの予測を超えて急成長した明桜・風間

ノースアジア大明桜・風間球打【写真:荒川祐史】

風間球打を擁する明桜は12日の1回戦で帯広農と対戦する

10日に開幕した第103回全国高校野球選手権。2年ぶり開催となった「夏の甲子園」で注目を集めるのは、4年ぶりに出場するノースアジア大明桜(秋田)のエース・風間球打投手(3年)だろう。秋田大会では角度と威力ある150キロ台のストレートを次々に投げ込み、準々決勝の秋田戦では自己最速の157キロをマークした。3年夏にたどり着いた最初で最後の甲子園。世代を代表する投手へと成長を遂げた右腕は12日の帯広農(北北海道)との1回戦でどんな投球を披露するのか、胸が踊る。【高橋昌江】

なんだ、心配なかったじゃない――。思わず、笑ってしまった。

秋田大会出場をかけた5月の地区予選。初戦(2回戦)に先発した風間は公式戦で最速となる151キロをマークした。3日後の準々決勝でも7球団13人のスカウトの前で150キロ台を連発した。

今年3月。シーズンを前にインタビューした風間は「楽しみもありますが、球速が上がっているのかな、という心配もあります」と口にした。新型コロナの影響で独自大会となった2年夏に150キロを計測。「3年で155キロから160キロの間を投げたい」と思い描いていた右腕の気持ちは揺れ動いていた。

冬場にボールを握らないチームもあるが、明桜の投手陣は打撃投手などでボールを投げるようにしている。輿石重弘監督の「高校野球ができる期間は短い。冬場にボールを持たない期間を作ってしまうと、なかなか感覚が身につかない」との方針からだ。とはいえ、シーズン中のような強度ではなく、球数も多くない。場所も室内練習場で、スパイクも履いていない。指揮官が言うように投球フォームや指先の感覚が鈍らないようにすることが第一。2年冬よりもアベレージが上がっていたものの、3月中旬の風間は「去年みたいに、上がるのかな」と、自分の現在地に不安げだった。

ノースアジア大明桜・風間球打【写真:荒川祐史】

高校入学時は最速135キロ、昨年夏に150キロに到達した

それが、3月30日に栃木県で行われた練習試合で153キロをマークしたという。公式戦でも上々のスタートを切った。

地区予選で見た1球で、3月に聞いた「心配」はなんだったのかと笑えてしまった。2年生の頃とは球質が明らかに違う。角度がある球のボリュームはアップしていて、指にかかったストレートの威力はちょっと尋常じゃなかった。試合が進むにつれて、昨年まで抱いていた「少年」の影も消えていった。試合が終わる頃には風格も漂わせ、マウンドでの佇まいまで変わっていた。

無理なく筋肉がついたことが分かる体躯も含め、逞しくなったな、と感じたのは最上級生になったからでもある。風間の1学年上には、佐々木湧生(ノースアジア大)、長尾光(BCリーグ埼玉)、橘高康太(ノースアジア大)の3投手がいた。横のスライダーと制球力に長ける佐々木、変化球が多彩で試合の9割を変化球で組み立てたこともある長尾、球威で押す橘高と投球スタイルが異なる先輩たちに、速球派の風間。全員が140キロを超えるストレートを放り、輿石監督は「“4人エース”だと思っている」と話していた。

風間が「3人とも自分の面倒を見てくれたいい先輩」と言う彼らは身近な目標だった。「1年生の時に見ていて、すごいなと思っていた。一緒に練習していくうちに段々と追いついてきたかなという感じもあって、3人を越すぞという気持ちだった」。4人ともタイプの違いを自覚しながら、力を引き合い出す仲として切磋琢磨。その環境の中で風間はストレートのスピードを伸ばしていった。

高校には最速135キロで入学。1年夏には138キロをマークした。2年春は新型コロナの影響で公式戦が中止となったが、冬のトレーニングの成果などで球速は4、5月に「一気に上がった」。紅白戦では147キロを出した。独自大会の初戦のブルペンでは「いつもと違う感覚だった」と言う。3回戦に二番手で登板すると、148キロ、149キロと最速を更新。そして、準々決勝で150キロに乗せたのだった。

登板するたびに「3年生の夏を終わらせるわけにいかない」というプレッシャーを感じながらも、パフォーマンスを発揮。背中を追ってきた3人の“お兄ちゃん”の存在は風間のポテンシャルに磨きをかけた。とはいえ、まだ目一杯の力で投げる2年生。カルテットの“末っ子”は1試合を作ることよりも短いイニングが最適なタイプだった。

中日・八木スカウト「ワクワクした気持ちで見ることができる」

故郷・山梨でも遊び相手は兄だった。5歳上の長兄・球道さん、3歳上の次兄・球星さん(駿河台大)とキャッチボールやバッティングをしてきた。時にはサッカーも。幼少期の年の差は大きい。球打と名付けられた三男は、兄たちのようにプレーができず、悔しさを味わってきた。同時に「兄貴たちみたいにこなしたい」という向上心も常に持ち続けてきたという。その体験が先輩に好投手がそろっていた高校でも生きたのではないか。なお、5歳下の弟の名前は球志良君。全員、名前の頭文字に「球」が入る男4人兄弟だ。

育った環境と先輩投手陣の存在、そして学年もあり、「弟感」が強かった風間だが、3年生になった今年は「少年」から「青年」へと大人の階段を登った印象を受ける。シーズンを前に「自分は試合になると力が入ってしまう。体重移動でも前に突っ込んでしまう。その点を意識して、安定して投げられるようにしたい。今年は力まないように投げたいと思っています」と話していたが、今年は投球フォームでも打者との対峙でも、力の入れどころ、抜きどころといった調整が上手くなった。昨年までは出力100パーセントで力みがみられた。そんなありったけの力を出そうとする「全力」から、力加減をコントロールしてベストな状態で力を発揮する「全力」へと「全力」の質も変わった。

2年生までは「来年のドラフト候補」という位置付けだったが、3年生になると「ドラフト1位候補」へと評価を上げた。「リリースの強さがずば抜けている。一流と言われる投手が持ち合わせている資質。教えてできることじゃない」とはソフトバンク・作山和英スカウト。昨年までの投球フォームは上体の強さが目立ち、体が一塁側へ流れることがあったが、高校で2度目の冬を越えて下半身の強さもついてきた。作山スカウトが続ける。

「体幹も含め、筋肉のバランスが整ってきたんだと思う。効率のいい投げ方に変わってきた。去年はポテンシャルの高い素材型の選手というイメージだったが、完成度も上がってきている。(高知の)森木君が高校生ではずば抜けた、精度の高いピッチングができるタイプ。それに対して、素材型の風間君というイメージだったが、ピッチングの内容が上がっていて成長度合いが高い。バッティングもいいからトータルで評価していこうと思っていたけど、ピッチャーとしての内容がよくなっている。すごい、伸びたよね。いつかはこういうところまで来る選手だと思っていたけど、期待値を上回って伸びてきたなという感じ」

昨夏の独自大会で150キロをマークした試合を見ていたのが中日・八木智哉スカウト。「どこまで伸びるか、楽しみ。(選手を見ていて)こうなるだろうとイメージするけど、風間君は上限が分からない」と表現していた。それから1年が経ったこの夏、八木スカウトは「ワクワクした気持ちで見ることができる。風間君の試合を見ていると時間の経過が早いんですよね」と言った。年間、何百試合も視察するスカウトをも楽しませるとは恐れ入る。

大会3日目の第1試合で帯広農と対戦する【写真:荒川祐史】

風間「1つでも多く勝って、みんなと長く野球をやれるようにしたい」

投球だけでなく、スカウトがこぞって褒めるのは風間の全力疾走だ。「見ていて、気持ちがいいよね」「走る姿がいい。バネを感じる」「打っても走っても、プレーの様がいい」――。足は特別速いわけではないが、トップスピードに乗るのが早い。打席から一塁に向かう時、走者になった時、誰かと競争しているかのようにダッシュする。

春の地区予選でライトを守っていた時は、バックネットにぶつかったり、一塁、三塁スタンドに入ったりする明らかなファウルでも機敏に反応。打球方向に数メートルもダッシュしていて感心したのだが、申告敬遠された時はさらに驚いた。一塁へ、タッタッタッタッと向かう打者が多いと思うが、風間はバットを地面に置いたと思ったら一歩目から腿を高く上げて猛然とダッシュしたのだ。それも、口角を上げて。学校の休み時間にふざけて友達を追いかける子どものように。

球速や球質、投球だけでなく、見ている者を飽きさせない要素をふんだんに持っている風間。球速が注目されがちだが、変化球にもこだわりを持って磨いてきた。秋田大会で1球だけ計測した「157キロ」のインパクトは強いが、そこに捉われない奥深い魅力がある。1年夏は秋田大会決勝で敗れ、同秋は東北大会2回戦敗退。昨夏は甲子園が中止になり、独自大会で優勝したものの、聖地のマウンドを踏むことはできなかった。昨秋は県大会初戦で敗れており、高校野球でやっとたどり着いた舞台だ。

明桜は大会3日目の第1試合で帯広農と対戦する。いよいよ、風間が全国でベールを脱ぐ。「悔いのない高校生の野球をしたい。甲子園も負けに行くわけじゃないので。1つでも多く勝って、みんなと長く野球をやれるようにしたい」。3年生のシーズン目標をそう語っていた。居心地のいい仲間と1日でも長く野球をして、「なんだ、心配なかったじゃない」と、思わず微笑んでしまうパフォーマンスを期待せずにはいられない。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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