東京五輪決勝で侍J相手に好投 鷹マルティネス、来日4年目で大きく変わった点を探る

ソフトバンクのニック・マルティネス【写真:藤浦一都】

日本ハムに3年間在籍、今季は鷹で7勝、防御率2.03の好成績

ソフトバンクのニック・マルティネス投手が好調を維持し、来日4年目にしてキャリアベストのシーズンを過ごし、先発陣の軸の1人として快投を続けている。米国代表として出場した東京五輪でも決勝戦で日本代表を相手に6回1失点の好投を見せるなど存在感を示した。2019年シーズンを棒に振った故障から完全復活を果たしただけでなく、さらなる進化を感じさせる勢いだ。

今回はマルティネスの経歴に加えて、NPB入りした2018年以降に記録した成績、各種指標、球種別の被打率といった要素を紹介。数字から見えてくる好調の理由や、過去の投球との変化について考えていきたい。

マルティネスは2014年にレンジャーズでメジャーデビューし、2015年には24試合に登板して7勝7敗、防御率3.96の成績を残すなど、世界最高峰の舞台でも一定の活躍を見せていた。

2018年に海を渡って日本ハムに入団すると、来日1年目からローテーションに定着し、25試合登板で10勝11敗、防御率3.51。レンジャーズで先発ローテの一角を務めた実力をNPBでも発揮し、チームのAクラス入りに大きく貢献した。

しかし、2019年を故障の影響で棒に振ると、翌2020年には17試合で2勝7敗、防御率4.62と不振に。シーズン途中にはクローザーへの転向も経験したが定着しきれず、オフには3年間を過ごしたチームを退団する運びとなった。

ソフトバンクに移籍して迎えた2021年は入国の関係で開幕1軍入りはならずも、5月1日のシーズン初登板で6回無失点の好投を見せて白星発進。そのままローテーションの一角に定着すると、チームトップの7勝(2敗)を挙げ、防御率も2.03をマークしている。

今季は11試合に先発してすべて3失点以下、QS率も90.9%(10/11)と、安定感はまさに抜群。故障から2年が経過して、かつてのトップフォームを取り戻したというだけでなく、さらなる上積みを感じさせる投球内容となっている。

ニック・マルティネスの年度別成績詳細【画像:パ・リーグ インサイト】

2018年は打たせて取る投球で10勝、今季は奪三振率が大幅にアップ

ここからは、セイバーメトリクスの分野で用いられる指標をもとに、マルティネスの投球がどう進化したのか、より具体的に見ていきたい。

2018年の奪三振率は5.18で、打たせて取る投球を主体としていたことがわかる。そのスタイルを支えていたのは、与四球率2.23を記録した制球力。奪三振が少なくとも安定した投球を実現していた。

しかし、2020年は与四球率が4.74と上昇し、それに伴って防御率も3.51から4.62と1点以上も悪化。一時期リリーフに回ったこともあってか奪三振率は7.82に向上したが、投球の根幹を成していた制球力が失われてしまったことが、同年の不振の主要因となったことは確かだろう。

今年の数字に目を向けると、与四球率は2.03と、2018年を上回る水準に向上した。加えて奪三振率も9.13とイニング数を上回る奪三振(71回72奪三振)を記録。結果として、奪三振を四球で割って求める、制球力を示す指標の「K/BB」も昨年の1.65から大きく向上して4.50に。一般的に3.50を上回れば優秀とされる中で、大きくその値を上回っている。

被本塁打率も顕著に改善が見られる部分の一つだ。2018年は0.891。四球による走者を許す割合が低かったぶんだけ、被本塁打が大量失点につながらなかった面もある。0.947だった昨年は防御率も大きく悪化していることからも、決して軽視できない要素であることがうかがい知れる。

そんな中で、2021年の被本塁打率は0.634と目に見えて改善されている。それが防御率の向上にもつながっているというだけでなく、外野フェンスが高い札幌ドームから、ホームランテラスがあるPayPayドームに本拠地が変わったにもかかわらず、被本塁打のペースが大きく減少しているという点も特筆すべきだろう。

もう一つ、本塁打を除くインプレーの打球が安打になった割合を示す指標で、一般的に運が占める要素が強いとされる「BABIP」についても見ていきたい。通常、特定のシーズンに大きく成績が向上した投手のBABIPを見てみると、その他の年に比べて値が低くなっているケースが少なくない。

マルティネスの場合は好成績を残した2018年と2021年はそれぞれ.288と、平均値の.300よりもやや低くなってはいた。しかし、NPB通算での.291という値とは、ほぼ差のない数字でもある。また、2018年よりも2021年のほうが成績が大きく向上しているにもかかわらず、両年のBABIPが同じ数値であるという点が、運に左右されない要素によって投球内容が向上していることを示してもいる。

ニック・マルティネスの球種別被打率【画像:パ・リーグ インサイト】

球速がアップしたツーシーム、チェンジアップととも効果的な球種に

最後に球種別の被打率についても見ていきたい。2018年は最速で150キロ台に達するストレート、140キロ台半ばのカットボールとツーシームを活かして、ゴロを打たせる投球を展開していた。チェンジアップ(.206)、カーブ(.169)という球速の遅い2球種の被打率は低く、速球系の3球種の被打率は高くなっていた(直球.370、カットとツーシームは.275)ところにも、打たせて取る球と、空振りを狙う球の違いが表れているといえよう。

不振だった2020年はツーシームの代わりにスライダーを用いていたが、ストレート、カットボール、カーブの3球種が被打率.300を超えるなど苦戦した。だが、2021年は再びレパートリーに加えたツーシームの球速が向上し、150キロを超えることも珍しくなくなった。3シーズン全てで被打率が低かったチェンジアップもさらに進化し、低めに制球して三振を奪えるように。この2球種の被打率がとりわけ低くなっている(ツーシーム.130、チェンジアップ.111)のも、その威力と精度の表れといえよう。

また、カットボール、速球、ツーシームとの間に球速差が生まれたことにより、チェンジアップよりもやや速いカーブも含めた、4つの球速帯で勝負ができるように。2018年には同じような速度から逆方向に曲がるカットボールとツーシームを活かしていたが、また違ったかたちで的を絞りづらい投球スタイルを構築している。

打たせて取る投球から多くの三振を奪うスタイルへの転換が奏功し、安定感が大きく向上。それに加えて、持ち味だった制球力の復活や、被本塁打の減少といった要素も、現在の好投へとつながっている。

故障前の自分の幻影を過度に追い求めることなく、投手としての完成度をさらに高めた姿勢と、故障と不振を乗り越えてカムバックを果たした不屈の闘志は、見事の一言に尽きるだろう。今後もどんな投球を見せてくれるか。注目してみてはいかがだろうか。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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