デルタ型の猛威で中国「ゼロコロナ戦略」に暗雲、日本株に及ぶ中国リスクとは

新型コロナウイルスのデルタ型の感染が世界的に広がっています。ワクチン接種で先行する米国や英国では、感染者数は増加しているものの死者数の増加ペースが抑制されていることから、行動制限を緩める動きが続いています。ワクチン接種数が1億回を超え、接種完了率が40%に近づきつつある日本でも、感染の拡大と比較して死者の増加は抑えられています。

一方、ワクチン接種が遅れているその他のアジア諸国では感染、死者ともに増加傾向が続いています。これまでアジアでは感染者、死者ともに欧米対比で低い状況が続いていました。しかし今局面では、直近で世界の新規感染者のおよそ2割、死者の3割ほどをアジアが占めるに至っています。

こうした中、フィリピンではこれまでで最も厳格なロックダウンが実施されている他、マレーシアやタイなどでもロックダウンが強化されています。コロナの封じ込めを目指してきたオーストラリアでもロックダウンが繰り返されていますが、政権の方針は徐々にワクチン接種の加速へと転換されてきています。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


中国のゼロコロナ戦略に狂いも

そうした中で懸念されるのは中国です。中国は徹底した検査と隔離によって、いわゆる「ゼロコロナ」を目指しており、そうした戦略はこれまで奏功してきました。しかし、デルタ型の強い感染力の前では行動制限をさらに強化せざるを得ず、封じ込めのコストはこれまで以上に高まります。7月の中国の製造業PMIは国家統計局版で50.4、財新版で50.3まで低下し、拡大・縮小の境となる50に近づいています。

また、欧米の感染抑制はあくまでもワクチンによって達成されたと考えられます。中国でも複数の企業によってワクチンが開発されていますが、中国製ワクチンを国民の大部分が接種したチリでは感染拡大が止まらず、タイでも中国製ワクチンの接種者に欧米製ワクチンの追加接種が行われるなど、中国製ワクチンの信頼性には世界的に疑問が投げかけられています。

中国としては自国ワクチンへのプライドから欧米製ワクチンを大量に輸入することには慎重でしょう。結果として中国は効果的なワクチンが乏しい状況で感染力の高いデルタ型を迎え撃たざるを得ませんが、こうした戦略が長期的に有効かは疑問です。

公式発表では中国での新規感染者は一日で数十人となっていますが、中国でほとんど感染者が出ていなかった昨年秋に、日本の空港検疫では中国からの入国者の中から多数の感染者が見つかっており、中国政府の発表内容の信頼性は不透明です。

確認する術はないものの、すでに中国でデルタ型の感染が十分広まっている可能性は意識する必要があります。

<写真:新華社/アフロ>

欧米株と日本株の差がさらに広がる?

アジアにおけるデルタ型の感染拡大の影響は日本企業にも及んでおり、複数の企業がアジア地域で工場の稼働率を落としています。世界的な供給制約の中での生産減少は業績に大きく響きます。

一方、欧米ではすでにアフターコロナの世界が見えてきています。大谷選手の活躍するメジャーリーグの中継や東京五輪の閉会式で映し出されたパリの様子など、欧米におけるマスク無しの群衆は日本のテレビでもおなじみの光景となっています。こうした中、FRB(連邦準備理事会)のクラリダ副議長は「年内のテーパリング開始発表を支持する」と発言し、金融緩和の縮小がいよいよ本格化してきています。

これまで筆者は新型コロナウイルスの感染拡大は必ずしも株価にネガティブではないと繰り返してきましたが、それは感染拡大を受けた金融・財政両面での政策対応によって株価が支えられることが前提です。アジアで感染が拡大しても、米国で感染が拡大しなければFRBによって金融政策は引き締められてしまい、世界的なリスク資産の調整が促されます。

株価=業績(EPS、一株当たり利益)×バリュエーション(PER、株価収益率)ですが、日本株にとってはデルタ型の感染拡大によって事業に占める割合の高いアジアを中心に業績が抑えられ、FRBによる金融緩和縮小によってバリュエーションも縮小するといった事態に陥りかねません。

アジアから資金が撤退している?

それ以外にも、中国は米国との対立という問題を抱えています。中国による米国産農作物の購入はトランプ政権との合意内容を大幅に下回っており、かつては中国との貿易戦争を批判していたバイデン大統領も対中関税を取り下げる気配はなく、半導体関連を中心とした対中制裁も続けられています。

内政面でも、中国政府はインターネット、半導体、教育といった成長産業に強力な規制を発動しており、特に学習塾運営に当たっては「非営利団体を目指すべき」といった衝撃的な内容の通達を出したことで関連銘柄の株価はピークの10分の1以下にまで落ち込んでいます。中国は短期的にはデルタ型の封じ込めに伴う経済減速、長期的にはこうしたビジネス環境の悪化という事業リスクを抱えています。

中国株が高値から30%を超えて下落したことを考えると中国向けの投資を引き揚げる動きはすでに出てきていますが、海外投資家による日本株の売り越し基調は続いています。中国から抜けた資金が日本に入っている様子はうかがえず、むしろアジア全体から資金を引き揚げる動きすら感じられます。

米国株は最高値を更新していますが、日経平均株価は2月につけた3万円越えの高値まで遠い水準です。業績、バリュエーション、需給のいずれに対しても逆風が吹く中、日本株の外国株対比での出遅れはさらに深刻化しかねない状況です。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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