第23回「アントミル(Ant mill)─死の行軍」

異次元の常識 text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

死の行軍から抜け出すために必要なものはなんだ?

2021年7月31日現在、日本ではオリンピックが開催されている。全国で、31日の1日だけで4,058人という過去最多の感染者が出ており、前の週の平均値と比べて今週は2倍以上となっているにもかかわらずだ。 俺はテレビというものを全く見ないし、Twitterでも「オリンピック」「メダル」「五輪」などの言葉を表示されないようにしているので、世間の人たちよりもオリンピック情報には疎いと思う。 しかしそれでも実際には、テレビでオリンピックを見ている人間によって、嫌でも情報が入ってきてしまう。 俺の周りの実際の友人や、全く知らないSNS上だけの繋がりの人間まで含めても、9割以上はオリンピック開催には反対の人間たちばかりだった。しかしいざオリンピックが始まってみると、オリンピック開催に反対していた人間たちが、オリンピックを見ているのである。摩訶不思議であり、ちょっと理解ができない。 どんなものかと見ているのかもしれないし、どれだけ酷い金の使われ方をしているのか見ているのかもしれない。選手に罪はないと応援する人間や、始まったからには楽しむという人間もいるのかもしれないし、テレビで観戦するならばコロナ感染対策としていいじゃないかという人間もいるだろう。 しかしちょっと待ってくれ。オリンピックというもの自体がどういうものなのかを考えてみないか? 共産党参院議員である大門みきし氏がこう指摘している。

「IOC(国際オリンピック委員会)の収入の大半はオリンピックを各国のテレビ局に放映させる放映権収入です(四年で約七千億円)。(中略)日本の委員会にも配分されるこのお金は委員の高額報酬にも充てられています。IOCと日本のテレビ局を仲介し巨額の手数料を稼ぐのは電通です。テレビ局も大企業からばく大なスポンサー料が入ります。かれらは無観客でもテレビ放映できればいいのです。またオリンピックの運営業務の大半を受注するのはパソナです。会長は私の『天敵』とマスコミも指摘する竹中平蔵氏です。これらの大企業から献金等の支援を受けているので菅首相はオリンピックを中止しないのです。」(兵庫民報 2021年7月18日付より)

オリンピックのテレビ観戦が、一体どういう事態を招くのかが分かるだろう。テレビで観戦するということは、コロナを顧みず、国民の生命を顧みずに、放映権という利権で金儲けをするための企業やマスコミ、IOCに加担し、コロナ感染拡大の原因であるオリンピック開催に一役買い、国民の生命を見殺しにする行為を応援しているのに等しいと言っても過言ではないだろう。 選手は悪くないという意見もよく見るが、オリンピックに参加するということは、コロナ感染者が爆発的に増えてしまう高い可能性に加担している行為ではないのか? 一生を懸けて自分の夢を追い、やっと手にしたオリンピックの出場権という大変さや大切さは分かる、しかしそれと人の生命は比べられるものではないだろう。 選手が一生懸命頑張っているのは、俺などの想像を絶する努力であることは重々承知だ。しかし寄り添うのは選手たちへではなく、今コロナに冒され苦しんでいる人たちや、医療従事者たちへではないのか? 上記の大門みきし氏のエッセイにも書かれているが、政治利用のためのオリンピックに加担する行為が、テレビ観戦や選手も含めた参加者であり、必然的に現政権やIOC、パソナを始めとする利権に群がる大企業や、都知事に賛同し協力している行為であると俺は確信している。 今回ばかりは、選手も観客も「参加しないことに意義がある」オリンピックだと言えるだろう。 そんな状況の中で、アントミル(Ant mill)という蟻の習性をSNS上で知った。 アントミルとは、盲目のグンタイアリのグループで観察された現象で、あるグンタイアリのグループが主な採餌隊から分離され、フェロモントラックを失い、互いに追従し始め、連続的に回転する円を形成し、最終的にはアリは疲れ切って死んでしまうという現象のようだ。(Wikipediaより) 餌を探しに行く蟻は、前にいる蟻が出すフェロモンを道しるべとして追従し移動する。そのフェロモンが指針となるために最終的に巣穴に帰れる蟻特有の習性である。 そして何かの拍子にバグのようなものが起き、一定の場所をグルグルと回り続けてしまう現象が起きてしまう場合があるという。それをアントミルと言い、最終的に蟻が死に至る場合もあるために、死の行軍とも呼ばれるようだ。 「オリンピックが始まれば、国民はどうせ忘れて盛り上がるだろう」と、安倍政権以来あからさまに国民を蔑んでいる政権のやり方に飼い慣らされて、日本国民はアントミルに陥っていると思わざるを得ない。 「ここにいたら死んでしまう」と思ったのか「何かがおかしい」と思ったのだろう。アントミルという死の行軍から、抜け出す蟻も存在する。そしてそのはみ出し者の蟻によって死の行軍が壊され、他の蟻たちも助かっていく。 死の行軍から抜け出す蟻の存在は非常に大切だし、尊敬に値する。その行動は異端とされ、仲間からも総スカンを喰うかもしれない。それでもはみ出し者の蟻は、助かる道しるべをつけてくれる。 俺の子どもや友人、愛する人たちには死の行軍からは抜け出してほしいし、全く知らないみんなにだって、抜け出す蟻になってほしい。 俺だってアントミルにハマっている最中かもしれないし、今の日本国民たちは皆、死の行軍のループにハマったアントミルの蟻と同じように感じてしまう。 抜け出すために必要なものはなんだ? 他人のケツにくっついて流されるまま死んでいくのか? 生命を軽視した金儲けの道具にされても何も思わないのか? 死の行軍を無理やり歩かされ、ただ死んでいくだけなのか? そんなもんか? それでいいのか? あんたはそんなもんじゃないはずだ。

Sonnamonka(そんなもんか)/ ZONE

飲み込まれ 首を絞め合い

分かっていても諦め

黙っていれば楽に 通り過ぎていくけど

そんなもんか

それでいいのか

そんなもんか

それでいいのか

SO JUST FUCK OFF!

必要ないと言われ

自然な者は吐き出され

何の為の、何か分からず 通り過ぎていくだけ

そんなもんか

それでいいのか

そんなもんか

それでいいのか

SO JUST FUCK OFF!

逆らう事もできず

いつまでもそのまま

ためらうばかりで 何もしないのか

SO JUST FUCK OFF!

勝手に閉ざす事など

絶対認めねぇ

鼻先だけで軽く

動かせると思うなよ

RISE AGAINST OPPRESSION(圧政者に反抗して立ち上がれ)

磐田を拠点に活動を続け、静岡ハードコア・シーンを代表するバンドとして絶大な支持を誇るZONE。「Sonnamonka」は1994年12月にHG Factからリリースされた1st EP『Win Back To Sanity』に収録。

【ISHIYA プロフィール】

ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。

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