首位奪取目前の巨人 後半戦開幕にあった原監督の狙いと期待に応えた選手たち

後半戦の初戦を制し、観客に手を振る巨人・原辰徳監督【写真:中戸川知世】

攻撃では一、三塁の展開を、守っては流れを引き寄せる守備と継投

■巨人 4ー2 中日(13日・東京ドーム)

やはり野球は流れのスポーツであることを実感させられる試合だった。後半戦開幕となった13日、巨人は中日と東京ドームで対戦し、4-2で勝利。首位・阪神とのゲーム差を1とした。初回から動いたこの試合、流れが両チームに行ったり、来たりしたが、最後は巨人・原辰徳監督が動き、選手たちがその期待に応える形となった。リーグ3連覇を目指すチームの結束が強固になっている印象だ。

かつて、巨人でチーフスコアラーを務めるなど、原監督に長く仕えた三井康浩氏はこう言っていた。「長嶋監督は長打で1点を取りにいく野球。原監督は一、三塁を作って、試合を動かして勝つ野球」だと。初回、先頭の松原が左前安打で出塁すると、続く坂本も左前安打。松原は判断よく俊足を生かし、三塁を陥れた。無死一、三塁。あっさりと理想的展開に持っていくと、続く、丸が先制適時打を放った。

試合は巨人の山口、中日の柳の投手戦で1-0のまま進んだ。指揮官の頭には追加点をどう奪うか、そして救援陣の計算を始める頃だっただろう。注目したのは6回の巨人の攻撃。坂本が左前安打で出塁。丸が中飛に倒れると、4番・岡本和のところで、ランエンドヒットを仕掛けた。岡本和は右前へ打球を運び、坂本は三塁へ。1死ながらまたしても一、三塁。得点機を作った。

頼みのウィーラーが三振に倒れ、2死。どうしても1点がほしい場面だ。打者・北村のところで一塁走者の岡本和がディレードスチール。中日捕手の木下拓が二塁へ送球する雰囲気を出し、三塁走者の坂本のスタートを切らせると、判断よく、三塁へ送球。坂本はタッチアウト。重盗が失敗に終わり、無得点。流れが中日に傾いた。

そして、その直後の7回表。好投を続けていた巨人先発の山口がビシエドに2ランを浴び、逆転を許した。好機を逃した後の失点は痛かった。回も終盤。そのまま中日が逃げ切るか……。しかし、次の“波”は8回の攻防にまだあった。

右越え同点弾を放った巨人・若林晃弘【写真:中戸川知世】

8回の攻防。坂本は後輩に拍手を送った。

すべては結果論かもしれない。だが、確かに雰囲気が変わる瞬間はあった。8回表、巨人3番手として、高梨がマウンドへ。先頭の京田のゴロの打球を左手中指骨折から復帰した二塁手・吉川が好捕。判定は一塁セーフとなったが、リクエストでアウトになった。その好捕をそばで見ていた坂本はアウトを確信し、吉川へ拍手を送っていた。

高梨は2死まで取ったが、大島へ遊撃内野安打を許した。続く打者は前の打席で本塁打を放っているビシエドだ。ここで原監督はベンチを出て、今季未勝利の桜井をマウンドへ送った。今季、思うような結果を残せていなかった右腕へ、大きな場面を託したのだ。ここも勝負の分岐点だった。

桜井は前半戦とは違うフォームになっていた。闘志を剥き出す風貌は変わらないが、左手やリリースの腕の使い方に変化があった。強気の直球攻めで内角をえぐり、最後は147キロの直球でビシエドを三ゴロに仕留めた。勢いをつけさせる吉川の守備、高梨の粘り、桜井の気迫があった。

そして8回。原監督の代打策がはまる。桜井の代打・若林が中日の又吉から値千金の右越え同点弾。「割り切って初球から思い切っていこうと。完璧な手応えで気持ち良かったです」と若林はたった一球で仕留めた。その後も坂本、丸の連続四球から、4番・岡本和、途中出場の大城がたたみかけて2点を追加。最後は守護神のビエイラが締めた。桜井は今季初勝利を救援で手にした。2年前、主に先発で8勝を挙げ、優勝に貢献したが、あの年も救援勝利から階段を上がっていった。ひとつのきっかけになるかもしれない。

東京五輪の疲れを見せずに坂本は通算169度目の猛打賞。プロ野球では広瀬(南海)に並び9位タイの記録となった。4打席目は四球も最後は勝ち越しのホームを踏む活躍だ。「チームが勝てたことが何よりも良かったです。その中で、いい仕事ができてよかったです」と語った。その言葉に尽きる。

阪神が敗れ、首位とは1ゲーム差。怪我人続きで苦しい戦いの今季だが、指揮官の意図する野球に、選手も応じる。今は選手たちが流れを読み、首脳陣の想像を超える野球を体現しているようにも見えた。まだ後半戦が始まって1試合だが、阪神とのゲーム差をここまで縮めてきたのには、確かな強さがあり、選手たちからは自信が感じとれた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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