白倉伸一郎(プロデューサー)- 『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』2大ヒーローシリーズが積み重ねてきたからこそできることがすべて詰まっている

夏休み映画として子供たちに楽しんで観てもらおうと考え

──『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記(以下、スーパーヒーロー戦記)』とても面白かったです。もっとお祭り的な作品になると思っていたので、実際はドラマが濃い作品でビックリしました。

白倉(伸一郎):ありがとうございます。

──石ノ森(章太郎)先生の漫画版『仮面ライダー』でも描かれている、正義と悪は表裏一体であるという部分が今作でも受け継がれているように感じました。

白倉:日本のヒーロー黎明期を支えてきた石ノ森先生世代の方々には幼少時の戦争体験というものが色濃くあるので、ただの勧善懲悪というものに抵抗があるのだと思います。価値観が情勢に応じて容易にひっくり返ってしまうという経験をされているので、“正義”という言葉を使うことに凄く慎重なんです。

──戦中・戦後で価値観が180度変わることを経験されているのでそうかもしれないですね。

白倉:初代仮面ライダーのプロデューサーの平山(亨)さんも「正義という言葉は使わないようにしている。」と著書で書かれているんです。でも、仮面ライダーの歌では「正義のマスクー♪」と言っているんですよね(笑)。

──そこは子供たちメッセージを分かり易く伝えるためには致し方ないところです(笑)。

白倉:そうですね。

──『スーパーヒーロー戦記』では登場人物たちが「自分たちは物語の登場人物」という事を認識しています。半世紀以上にわたって愛されている両シリーズは王道作品と言っても差しさわりがないと思いますが、その王道作品・メインストリームである本作でそこに切り込んでいく勇気が凄いなと感じました。

白倉:2つの作品を合わせた世界を描くにはどうすればいいかと考えていった結果そうなった形です。これはお約束でもありますが、日曜日の朝にTVを付け『仮面ライダーセイバー(以下、セイバー)』を観終わると、全く違う世界観で『機界戦隊ゼンカイジャー(以下、ゼンカイジャー)』がスタートする。それは番組が違うので世界が違うんですというお約束ですが、そのお約束を観ているお子さんたちも理解していて受け入れてくれているんです。

──確かにそうですね。私自身が子供の時もそのお約束は自然と受け入れていました。

白倉:作品ごとに世界が異なるお約束というものとクロスオーバーをどう両立させるかとなると大きく分けて2つしかないんです。1つは『アベンジャーズ』シリーズのようにこれまであった設定を再構築して新しく作ってしまう方法。それまでの作品では個々に独立していた設定を地続きのものとして描き直すやり方です。

──アメコミでは同じヒーローを複数の作家がそれぞれの物語を描いているので、パラレルワールド的な世界が受け入れられている土壌があるのでそういった描き方もありですね。

白倉:もう1つはそれぞれ小宇宙として独立している各作品世界の境界線が、壊されて繋がってしまったということを可視化してドラマに落とし込む方法。この2通りしかないんです。

──今回は小宇宙が繋がってしまったことを可視化する形を取られたということですね。その落とし込み方も凄く自然に描かれていたので、両ヒーローがともに戦う姿をすんなりと受け入れられました。

白倉:両シリーズとも基本的に1年ごとにシリーズを区切っているので、そっちの方が合っていたという事ですね。

──そうですね。ただ、TVシリーズと違いこの映画のような集合ものではキャラ被りも出てしまうのでバランスを取るのは難しいのかなと思いますが、その点はどこに軸をおいて組み立てられたのでしょうか。

白倉:今作に関しては『セイバー』のクライマックスのタイミングで公開されるので、『セイバー』を主軸に据えて描いていくべきだと考えました。これはたまたまですが、『セイバー』の主人公(神山)飛羽真は小説家で物語を自分で作り出す職業なので、その文豪の部分とアニバーサリー・大集合という部分をどう掛け合わせていくか考えていく中、各シリーズが物語であるという形で表現していくという方向に自然となっていきました。

──本作では『セイバー』『ゼンカイジャー』がクロスオーバーする姿を『里見八犬伝』と『西遊記』を通して描かれていますが、この2つの作品を選ばれたのはなぜなんですか。

白倉:今作特有のテーマ性とか理屈とは別個の次元で、まず『セイバー』の夏休み映画として子供たちに楽しんで観てもらいたいので、本の世界を大冒険できるという『セイバー』が本来持っている要素を前面に出そうと思ったんです。今作の設定から石ノ森先生の子供時代に馴染みがある作品にしないといけない訳ですが、仲間を集めて旅をしていく物語がそんなに多くはなかったんです。

──そうか、石ノ森先生にとっても子供時代から馴染みがある作品という要素も必要になる訳なんですね。

白倉:そのころに流行っていたものということで、この2つのタイトルを選びました。

──両作品にインスパイアされている作品は多く、その流れは脈々と受け継がれていますから子供たちにも受け入れられていると思います。また、コメディ要素もうまく取り入れられていたので、エンタメ映画としても観ていて楽しかったです。

白倉:それは良かったです。

話し合っていく中で自然と福くんがイメージとして出てきた

──飛羽真が小説家ですから物語世界であることを表現するという事であれば飛羽真で描くことも出来たと思いますが、今回のアニバーサリーで石ノ森先生を出そうと思ったのは何故なんですか。

白倉:小説家である飛羽真が本当に対決しないといけない相手、飛羽真の天狗の鼻をへし折れる人と言えば原作者しかいないだろうという事で石ノ森先生に出ていただきました。正確にいうと飛羽真の対峙するべき相手は脚本家・監督ですけどね(笑)。

──確かに(笑)。

白倉:それをしてしまうとメタすぎるので、誰でもわかる象徴的な存在としては石ノ森先生しかいません。あと、今作がライダーと戦隊のダブルアニバーサリー作品であるという事実をドラマ的に成立させるためという面もあります。世に数多いるヒーローたちの中で、なぜこの2シリーズだけピックアップするのかといえば、東映の2大ヒーローだからというこちらの勝手な事情なのが本当のところですが、両シリーズの生みの親の石ノ森章太郎先生に集約するとドラマ的に落とせるんです。

──その重要人物であり生みの親である石ノ森先生を鈴木福さんが演じています。映画の中では高校生の時代を描いているので世代的な部分もあるかと思いますが、鈴木福さんにお願いしたのはなぜなんですか。

白倉:企画チームと話し合っていく中で自然と福くんがイメージとして出てきたことが大きいですね。石ノ森先生を描くにあたっていつの時代にするかはいろいろな案がありました。上京した後なのか、もっと子供の頃にしようかという案もありました。そんな中、石ノ森先生ご自身の成長譚としても描くとなると、上京直前の時期が最もふさわしいんじゃないかと。なので、石ノ森先生の高校時代を描くことになりました。そこでもうイメージキャストとして福くんの名前が出ていたんです。高校生時代の石ノ森先生イメージとして彼が自然と浮かんで共有されていったこと、そして田﨑(竜太)監督が「若い頃の先生と福くんが似ているんだよね。」と言っていたことも大きかったです。

──鈴木福さんも藤岡(弘、)さんから「石ノ森先生の若い頃に似ている」と言われたそうです。

白倉:そうなんですね。受けていただけるか分からないけどオファーさせていただきました。なので、他の候補は考えていなかったんです(笑)。

──断られたら、そこでまた考えようと。

白倉:そうです。「お忙しいから無理じゃないか」と思いながら、でも「仮面ライダーが好きだ」と聞いたことがあるのでもしかしたらと考えてくれるかもとお願いしたところ、むしろ他の仕事を整理して受けていただけたので非常にありがたかったです。

──鈴木福さんにとっても夢がかなったわけなので。“トイレで手を洗う少年”役で出演されてはいますけど、改めて出演に至ったということですから。

白倉:あの時の福君は可愛かったですね。

──これだけ盛りだくさんの要素を含んだ作品でありながらドラマしても素晴らしく、両シリーズが受け継いできたバトンをこれからも引き継いでいくといことも描かれていて凄かったです。

白倉:ありがとうございます。脚本会議は大変でした。田﨑監督・毛利(亘宏)さんの二人だから出来た作品だと思います。お二人は議論をさせてくれるんです。

──大事なことです。

白倉:テーマを掘っていく作業・お祭り映画という要素・『セイバー』の完結に向けてのすり合わせ、さらに『ゼンカイジャー』もある。そういったいくつもの軸がある中でも、どれかに片寄るという事が出来ないんです。どうバランスを取るかが大変でした。堂々巡りする議論をしないといけなかったんです。普通はそういう事をやると嫌気がさすんです。

──そうですね。

白倉:みんながてんでばらばらに好き放題言うから、監督・脚本という立場でも「そっちで整理してくれよ。」と言いたくなってもおかしくない、でもお二人は我がこととして受け止めてちゃんと向き合ってくれました。「このキャラの扱いは許せない。」とか「本編との整合性が取れない。」とか無理難題しか言わないみんなの意見をさばいてくれました。

──みなさんそれぞれの愛がありますから、しょうがないです。

白倉:私自身も「理屈ばかりこね回しても面白くなるわけない、理屈を超えたところにある娯楽性が欲しい。」と適当なこと言ってました。

──そんな中でよく着地できましたね。

白倉:実際に「無理だ。」と思う事もありました。

──空中分解してもおかしくないですもんね。ライダーと戦隊を分けて2本立てとかになる可能性も出てきますよね。

白倉:いよいよとなるとそうするしかないかなとも思いました。

──でも、それだけみんなが意見を言えるというは良い環境です。スタッフのみなさんがそうであるように、観ているファンの中にもそれぞれのライダー像・戦隊像があります。1人が作品を引っ張っていくというのも時には必要な事ですが、今回の作品ではどれだけ幅広い意見を取り入れられるかというのは大事なことです。そういった話し合える環境は作ること事態が難しいので、それが元々あるというのが素晴らしいことだと思います。

白倉:“船頭多くして船山に登る”とも言いますから。

──むしろ山を越えてさらにその先に行っています。観ていて良い話だったので少し泣いてしまいました。

白倉:そう言っていただけると嬉しいです。

いまの時代だからこその描き方をしています

──先ほども伺った石ノ森先生たちの世代が持つ戦うという事に対しての嫌悪感・葛藤をちゃんと描かれているのが良かったです。その葛藤をしているところに飛羽真がやってきて「石ノ森章太郎先生だから描ける正義の姿がある」という事を諭していく、そこがクライマックスに繋がっていくのが胸を打ちました。

白倉:実際に石ノ森先生も創作に迷った時にお姉さんに背中を押してもらったそうなんです。その石ノ森先生自身の歴史とフィクションの部分を混ぜた形で描かせていただきました。

──描くにあたって石ノ森先生についても調べられたのですか。

白倉:もちろんです。この映画では評伝から史実に正確にというよりは当時ご自身がどう感じられていたかという点で、自伝に注目して調べ直しました。

──白倉さんは現場も含めて各世代の戦隊・ライダーに触れてこられていますが、今作を作るにあたって過去作品を意識されたという事はあったのでしょうか。

白倉:どう頑張ってもいまの2021年の感性でしか描けないので、敢えて意識したという事はないです。もちろん、今までのシリーズに対してのリスペクトはもちろんありますが、いまの時代だからこその描き方をしています。

──そんな中でも変わらない部分があって、正義と悪に境目はない形になっています。最大の敵も元々は味方側にいて意見の対立から別離してしまう形なっています。作中でも石ノ森先生自身の正義を表現するという事に対して葛藤が描かれていて見応えがありました。

白倉:そう言っていただけるのは、ありがたい限りです。やっぱり、功労者は田﨑監督と毛利さんと福くんですね。

──鈴木さんは「ドラマが凄くて演じていても楽しかった」と仰ってました。最初にタイトルを聞いたときはお祭り作品なんじゃないかと油断していました。

白倉:これだけシリーズがあると東映さんは何かというと集めたがってしまうんです。

──そういった作品を観たいというファンの思いもありますから。

白倉:それもわかります。でも、コチラの中ではどこかでやましさを感じることもあります。1年間主役を務めたキャラクターがズラッと並んで1つの塊となってしまっていることに申し訳なさもあります。ライダー全体が・戦隊全体が好きという方もいるでしょうけど、大方の人はこのライダーが好き・この戦隊が好きと、思い入れがあるキャラクターがいます。その大事なヒーローを横並びで、自分にとって思い入れのないキャラクターとも同じ価値ですとしてしまうと、観ている側からすると自分にとっての大切な思い出を怪我されたと感じられてもしょうがないきらいが出てしまう部分が大集合ものの罪です。そうした罪悪感を強く感じながらもそれを超えた価値・意義をどう描けるのかという、ないものねだり・あがきをしたうえで出来た映画だとも思っています。この2大ヒーローシリーズが積み重ねてきたからこそできることがすべて詰まっているような気がしています。

──こういった、大集合ものを観ることでそれほど馴染みのなかったシリーズや昔見ていたけどといったシリーズに触れるきっかけにもなる切っ掛けにもなると思います。私も『スーパーヒーロー戦記』を観たことで観直しているシリーズがあるので、そういうファンの門戸を広げる切っ掛けになりうる作品だと思います。

白倉:ありがとうございます。そういうお話を聞くと悪いことばかりではないなと思いますね。

──そうだと思います。実際に私自身がそうであるように、ヒーローを思い出す作品でもありますから。

白倉:アニバーサリーというのはこっちにとってじゃなくて、ファンの方々のアニバーサリーです。仮面ライダー・戦隊ヒーローの両シリーズが積み上げてきたものというのは、ファンの方々の存在に尽きると改めて感じています。

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