子どもが「ピンとこなくてもいい」 古田敦也氏が考える少年野球と指導者の向き合い方

元ヤクルトで野球解説者の古田敦也さん【写真提供:テレビ朝日】

古田氏が斉藤和巳氏と五十嵐亮太氏と投手論を展開、野茂英雄氏のトルネード秘話とは?

球史に残るヤクルトの名捕手・古田敦也氏がブルーのミットを構えた。2度の沢村賞を獲得した元ソフトバンクの斉藤和巳氏が傾斜からボールを投げ込む。2人とそれぞれ違うチームで同僚だった五十嵐亮太氏も加わり、技術論をたっぷりと交わした。3人は新たな野球の魅力を見つけ、視聴者へ届けた。

野球ファンが集まる古田氏の公式YouTubeチャンネル「フルタの方程式」は登録者20万人を突破した。今回の収録では古田氏が「子どもたちにもわかりやすく言うとどういう感じ?」とゲストの2人に説明を求めていたことが印象的だった。収録後、古田氏にインタビューをし、その真意について伺った。伝わってきた思いは小・中学生やその指導者へ「(技術や考え方の)選択肢を増やす」ことの重要性だった。

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今回、行われた収録は“投手理論”。捕手の古田氏が聞き役となり、斉藤氏、五十嵐氏をゲストに迎え、技術論が明かされた。古田氏と斉藤氏は意外にも現役時代、接点がなかったという。古田氏は「斉藤投手に実際、話を聞く機会がこれまでなかったので、僕も興味がありました。僕は捕手なので『こっちの足に体重を移動する』など投手の理解し難いこと、わからないことがたくさんあったので、話を聞きたかったんです」。視聴者の気持ちになって進行するだけでなく、自身も貪欲に投手について学んでいるようだった。

例えば、腹式呼吸の大切さについて話が及ぶと、古田氏は感嘆しながらも「小・中学生も(フルタの方程式を)見ているから、彼らができること何かある?」と語りかけた。斉藤氏、五十嵐氏は普段の腹筋トレーニングから鍛えることができるとわかりやすく解説した。

また、元近鉄、ドジャース投手の野茂英雄さんの代名詞「トルネード投法」の誕生秘話を古田氏が紹介すると、投手のひねりについて議論が及んだ。ボールのスピードと力を生むひねりは、体の回転だけでなく、股関節の使い方ひとつでも変わってくるという。難しく聞こえるような理論でも、丁寧に3人は説明して、カメラの向こうの野球ファン、少年少女に届けた。

古田氏は投手の2人の理論や考え方を聞いて「意外でした」と語った。

「呼吸を含めて、彼らも『球を速くするためにはここを鍛える』とそういう答えが出てきました。総合的にやらないといけない、などと表現するのかなと思っていましたが、一番はここ(球速アップ)かって思いました」

プロの投手でも、追い求めるところは同じだ。そのアプローチの方法が違うだけで、子どもの頃に描いた理想に向かって、努力を続けている。

「フルタの方程式」は開設3か月で順調に再生回数と登録者数を伸ばしている。コンセプトは“野球が上手になるきっかけを与えたい”というもの。元中日監督だった谷繁元信氏との捕手議論など、名選手たちの解説は驚かされることの多い内容だった。

「良い言い方をすると、トッププレーヤーの言葉は教材になると思います。指導者の方にもわかるようにしていかないといけませんし、中・高生で野球を上手くなりたい人たちにはレベルの高いことを伝えていかないといけないと思っています」

指導者も、子どもたちも、上手くなるアイデアやヒントをもらう程度の気持ちで

一方、野球を始めたばかりの年代にも、より野球への興味を持ってもらえるようにしたい。古田氏は制作サイドと時間をかけて、方針、コンテンツの内容を決めているが、現時点では「難しい話くらいがちょうどいいかもしれない」と感じている。ただ、子どもたちに間違って受け取られても困る。「補足を入れたりしながら、伝えていけたらと思っています」と話す。

今、少年野球の世界では様々な問題が生じている。ひと昔前の指導が、現代の子どもたちに合わないという声が聞こえる。そこに大人からの押しつけや、怒声・罵声が加われば、野球を続ける子が減ってしまう。昔ながらの指導を抜本的に変えるべきなのか、「俺の時代は?」のセリフは時代遅れなのか。それとも他にも着地点はあるのではないか……。そんな疑問を古田氏にぶつけてみた。

「指導者が言う『私の方針』というのは、時代によって違うかもしれません。ただ、一概にダメだとは思わないんですけどね……。色々な人が様々なことを言うけれど、実は本質をたどっていくと、1つのところに集約されている場合もある。表現方法が違うだけかもしれない。アプローチの方法が違っているだけで同じことを言っているケースや、人によって違う感覚を持っていることもありますから」

選手に適切なことを言っていても、言葉の強弱、選び方ひとつで、受け手がマイナスにとらえてしまうこともある。古田氏は、指導する側も、受ける側も、「野球が上手になるアイデア、ヒントになるかもしれない」という程度で、話を聞けばいいのではないかと考える。

「選択肢が増えるだけでもいいと思います。子どもたちはもしも迷ったら、『斉藤和巳投手はこんなことをやってたなぁ……。でも、なんとなくピンとこない。だったら、五十嵐亮太投手がこんなことやっていたから、やってみようかな』という感じで。ピンとこなくてもいい。その中で自分に合ったものを選んでいけるようになるといいと思うんです」

指導者の言うことは絶対に聞かなくてはいけない――。そういう心理にならないようにすることが、可能性を広げ、上達の近道になるのではないだろうか。

「指導者から与えられたアイデアでも、こういう(フルタの方程式のような)チャンネルでも(上達への)選択肢が増えるといいですね。反対に迷わせてしまうということも出てきてしまうかもしれませんが(選択肢が)ないよりは、絶対に良い。自分に合うものを見つけていってくれればいいですし、後々、前に違う人から聞いて受け入れられなかったことが、本質的に同じ部分、重なる部分があったと気づくことだって良いと思います」

チャンネル内の動画には明日から早速試したくなる一流の細やかな技術、トレーニングが披露されている。これが4か月足らずで登録者数20万人を突破した同チャンネルの魅力でもある。球界に名を残した選手たちが語り合った野球理論は「教材」、上手になるための「選択肢」となって映像に残されていく。

【動画】見てみたかったバッテリーが実現 古田敦也氏のキャッチングに感動する斉藤和巳さん

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(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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