【追う!マイ・カナガワ】濃厚接触者も投票に行ける? コロナ禍の横浜市長選

「投票所では、感染症対策を行っています。安心して投票にお出かけください」と書かれた横浜市長選のポスター=横浜市中区

 「濃厚接触者も投票には行けると、保健所に言われました。みんな知っているのでしょうか」。横浜市戸塚区に住む会社員男性(36)から「追う! マイ・カナガワ」取材班に質問が寄せられた。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中で横浜市長選の投開票が22日に迫っている。コロナ禍の投票について調べた。

◆本音をもらしつつ…

 今月上旬、男性と同居する家族が新型コロナ陽性と分かり、自身も濃厚接触者に認定されたという。

 患者と接触後、14日間は健康観察期間となるため、男性の場合は27日までが外出自粛期間だ。保健所の担当者からは「食事の調達以外は外出を自粛してほしい」と電話があった。

 ただ、担当者からはこうも告げられた。「22日の市長選には行けます」

 「正直、コロナ対応の連絡の中で『選挙』という言葉が出てくるのは想定外だった」という男性は「1票の重さを再認識したけど、みんな知っていることなのか気になり、マイカナに投稿しました」と話す。

 取材班は、選挙に行くことを積極的に呼び掛けているのか、同市健康安全課に問い合わせてみた。「選挙のことは聞かれれば答えるが、呼び掛けてはいません。ただ市長選が近いので、時期的に気を使って先に説明した可能性はある」と担当者は言う。

 濃厚接触者は投票に行けるのかと確認すると、「保健所としては感染を抑えることが第一なので、陽性でなくても家から一歩も出てほしくない」と本音をもらしつつ、「ただ、そうもいかないので、総務省が投票には行けると基準を示しているのだと思う」と続けた。

◆総務省は即答

 濃厚接触者の投票について総務省にも確認すると、「投票に行って差し支えありません」と即答された。

 新型コロナウイルスの感染が広がり、1回目の緊急事態宣言下にあった昨年4月の時点で、そうした方針が出ていたという。

 当時の安倍晋三首相は「選挙は、住民の代表を決める民主主義の根幹をなすものであり、不要不急の外出には当たらない」と、国会で答弁していた。

 「投票は不要不急の外出には当たらない」。これが、投稿者の男性が聞いた保健所からの案内の根拠だった。憲法は国民の投票権行使を保障しており当然かもしれないが、濃厚接触者が選挙当日までに、陽性になっているリスクもある。

 そこに不安を感じる人もいるのでは-。横浜市選挙管理委員会に投票所での対策を尋ねると、「個別に濃厚接触者であることは聞かないが、体調が悪い方や感染の疑いがある人は申し出てくださいと、投票所の張り紙などでお願いする」という。

 申告に基づき、前後の人との間隔を空けたり、投票で使用したものをすぐに消毒したりするようだ。

◆「制度の検証も必要」

 取材班は、かつて川崎市選管事務局長を務め、現在は選挙制度実務研究会代表理事の小島勇人さん(69)にも聞いた。

 「感染防止対策と選挙権行使をどう両立させるかは、大きな課題です」。小島さんはそう言った上で「自己申告の対応はあくまで、性善説に基づいている。有権者数が少ない自治体では、濃厚接触者の名簿を基に、投票所で前後の間隔を調整するなどの対策も行っている。選管は、自己申告を徹底させる必要がある」とくぎを刺す。

 さらに「今のところ投票所でクラスター(感染者集団)が出た情報はないが、感染防止対策を引き続き徹底すると同時に、制度の検証も必要だ」と強調した。

◆感染者は投票できる?

 取材を進めるうちに、感染者は投票できるのかも気になった。

 この点を総務省に確認すると、6月15日に成立した特例法により、新型コロナに感染して自宅やホテルで療養する有権者を対象にした「特例郵便等投票」が始まっているという。保健所からの交付書類を選管に送って投票用紙を入手し、郵送投票できる。都選管によると、7月の東京都議選では約2千人いた感染者のうち、112人が利用した。

 ただし、投票用紙入手の書面送付は投票日の4日前に選管必着。横浜市長選では8月18日午後5時がタイムリミットだ。

 では4日前を過ぎて感染が分かった有権者は、投票できないのだろうか。

 都選管の担当者が、感染者の療養するホテル敷地内に期日前投票所を設置した事例があると教えてくれた。4月に行われた衆院北海道2区の補欠選挙などだ。それなら、投票できる人が増えそうだ。

 ただ、都議選でも期日前投票所の設置や宿泊施設内でのリモート投票なども検討していたが、施設に100人以上が滞在することや、ホテル周辺への配慮などから難しかったという。

 横浜市内も四つのホテルが感染者の宿泊療養施設となっているが、期日前投票所は設けていない。「職員の感染リスクやスペースの確保の問題でハードルが高かった」と担当者。大都市の選挙での感染対策の難しさを感じさせた。

◆取材班から

 投稿者の男性は「当日は体調に注意しながら、投票には行きたい」と話していた。今後は総選挙も控えており、感染予防しながら、憲法で保障されている国民の1票の権利をどう守るのかは全国で大きな課題となるだろう。引き続きこの問題を注視したい。

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