2021年度「賃上げに関するアンケート」 21年春の賃上げ、中小企業は7割に届かず

 2021年春に賃上げを実施した企業(一部予定含む)は70.4%で、2016年度以降で最低だった2020年度の57.5%から12.9ポイント上昇した。しかし、官製春闘で賃上げ実施率が80%を超えたコロナ前には10ポイント届かなかった。新型コロナ感染拡大で実施率が57.5%に急落した2020年度と比較すると底打ちとはいえ、長引くコロナ禍で不透明な先行きに慎重な企業の姿勢が見え隠れする。
 産業別では、最高は製造業の77.1%に対し、金融・保険業、不動産業は50%台にとどまった。また、大企業(資本金1億円以上)は76.6%が実施したが、中小企業は69.2%にとどまり、規模や業種による差が拡大した。
 賃上げの実施内容は、最多が「定期昇給」の83.1%。「賞与(一時金)の増額」は37.7%で、コロナ禍で業績回復が遅れ、長期的な資金負担を伴う「定期昇給」や「ベースアップ」を避け、期間損益に応じた賞与の増額で対応した企業が多かった。
 「賃上げ率」は、3%未満が50.7%を占め、企業の半数が賃上げ率3%に届かない状況が続いている。コロナ禍で事業環境が激変した2020年度に比べ、企業の「賃上げ」は緩やかに回復している。しかし、ワクチン接種が進むなかで、夏場の感染再拡大の収束は見通せず、内需型産業と輸出型産業の業績格差や、慢性的な人手不足の間で板挟みに苦悩する企業が少なくない。

  • ※本調査は、2021年8月2日~8月11日にインターネットによるアンケートを実施、有効回答9,760社を集計、分析した。
  • ※賃上げ実体を把握するため「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
  • ※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

Q1.今年度、賃上げを実施しましたか?(択一回答)

「実施率」、70.4%に回復
 アンケートの回答企業9,760社のうち、「実施した」は70.4%(6,871社)で、定期的な集計を開始した2016年度以降、最低だった2020年度の57.5%から12.9ポイント改善した。ただ、コロナ前の2019年度に比べ、10.4ポイント下回った。
 規模別では、大企業の「実施率」が76.6%(1,507社中、1,155社)だったのに対し、中小企業は69.2%(8,253社中、5,716社)で、7.4ポイントの差がついた。

賃上げ動向

産業別 製造業、建設業、卸売業の3産業で「実施率」が7割台に回復
 Q1の結果を産業別で集計した。「実施した」の割合が最も高かったのは、製造業の77.1%(2,850社中、2,198社)だった。以下、建設業73.2%(1,120社中、820社)、卸売業72.2%(2,156社中、1,558社)と続く。最低は、金融・保険業の51.0%(96社中、49社)。
 規模別では、大企業の建設業、製造業で「実施率」が80%を超えた。中小企業では80%超えはなく、製造業、建設業、卸売業の3産業が70%台だった。
 10業種のうち、農・林・漁・鉱業を除く、9産業で大企業が中小企業の実施率を上回り、企業規模の格差が鮮明に表れた。特に、運輸業は大企業が76.4%(68社中、52社)に対し、中小企業は60.0%(328社中、197社)にとどまり、16.4ポイントの差がついた。
 一方、宿泊業や旅行業、飲食業などが含まれるサービス業他は、大企業の66.5%(242社中、161社)に対し、中小企業も62.7%(1,502社中、943社)で、差は3.8ポイントしかなかった。コロナ禍の影響が長引き業績が低迷するなかでも、人材確保のため、中小企業が賃上げを迫られている窮状が透けて見える。

Q2. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。実施した内容は何ですか。(複数回答)

「賞与(一時金)の増額」企業が上昇
 Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ項目を聞いた。6,746社から回答を得た。
 最多は、「定期昇給」の83.1%(5,608社)だった。以下、「賞与(一時金)の増額」の37.7%(2,545社)、「ベースアップ」の30.3%(2,048社)、「新卒者の初任給の増額」の10.0%(676社)の順。
 前年度と比べ、「定期昇給」は1.7ポイント(前年度84.8%)、「ベースアップ」は0.5ポイント(同30.8%)低下したが、「賞与(一時金)の増額」は、前年度の23.5%から14.2ポイント上昇した。業績低迷のなかで定期昇給を見送り、賞与や一時金で社員の実質収入をカバーする企業が増えた。

Q3.賃上げ率(%)はどの程度ですか?年収換算ベース(100までの数値)でご回答ください。

「3%未満」が半数
 Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ率を聞いた。3,575社から回答を得た。
 1%区切りでは、最多は「2%以上3%未満」の27.2%(973社)だった。次いで、「1%以上2%未満」が20.7%(741社)。「1%未満」を含む「賃上げ率3%未満」は50.7%(1,816社)と、半数を占めた。
 規模別では、賃上げ率が「3%以上」は大企業が32.1%(414社中、133社)に対し、中小企業は51.4%(3,161社中、1,626社)で、中小企業が19.3ポイント上回った。
 賃上げ実施は、大企業より中小企業の上げ幅が大きかった。元々、水準が低いことに加え、賃上げ後の給与水準が社員の定着と採用活動への影響が大きいことをうかがわせる。

賃上げ動向

 2021年度の「賃上げ実施率」は70.4%で、前年度の57.5%を12.9ポイント上回った。調査を開始した2016年度以降、コロナ禍で最低だった2020年度から改善したが、コロナ前の2019年度には10ポイント以上及ばなかった。
 コロナ禍でも業績回復や特需での好業績企業も出てきたが、長引くコロナ禍で業績回復が遅れ、賃上げに二の足を踏む企業も少なくない。
 賃上げを実施した企業のうち、3%以上の賃上げは大企業が32.1%にとどまる一方、中小企業は51.4%にのぼった。業種により今でも人手不足が継続し、人材確保や従業員の定着率向上のためにやむなく賃上げに応じざるを得ない中小企業の苦悩もうかがえる結果となった。
 厳しい経営環境で、業績回復が遅れた中での賃上げは、収益と資金繰りを直撃する。消費マインドや経済の活性化には、賃上げによる可処分所得の引き上げが欠かせないが、コロナ収束の時期が見通せないなかでは、着実に企業への負担は重くなる。業績回復が先行した賃上げまで、しばらく時間が必要だろう。

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