最低賃金の28円引き上げ、1割の中小企業で正規雇用を「増加」 「最低賃金引き上げに関するアンケート」調査

 厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月16日、2021年度の最低賃金を全国平均で28円を目安に引き上げる答申をまとめた。この決定を受け、東京商工リサーチ(TSR)では全国の企業にアンケート調査を実施した。
 最低賃金引き上げによる影響では、8割以上(構成比83.4%、7745社)の企業が当面の人員戦略には「影響は与えない」と回答した。ただ、503社(構成比5.4%)は、非正規従業員を削減する方針だ。一方、非正規従業員を増員すると回答したのは465社(同5.0%)だった。正規従業員より賃金を抑え、期間を限定する非正規雇用のメリットが希薄化する可能性が出てきた。
 正規従業員は、増員するとの回答が914社(同9.8%)に対し、削減するは287社(同3.0%)で、増員が減員を3倍上回った。非正規雇用の機会が減少する一方で、成長産業や好調な業種では、今回の最低賃金引き上げを契機に、正規従業員の増員に動くことも期待される。

  • ※本調査は2021年8月2日~8月11日にインターネットによるアンケート調査を実施。有効回答9,278社を集計し、分析した。
  • ※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

全国平均28円の最低賃金引き上げは御社の雇用政策に影響しますか?(択一回答)

「人員戦略に影響は与えない」が83.4%
 最低賃金の全国平均28円の引き上げについて、7745社(構成比83.4%)が「自社の人員戦略に影響を与えない」と回答、8割以上の企業が現状の雇用施策を維持するとした。この傾向は大企業(同89.7%)ほど顕著で、中小企業(同82.3%)と7.4ポイントの開きがあった。
 最低賃金の引き上げは、正規雇用より非正規雇用に影響しそうだ。503社(同5.4%)が非正規の削減意向を示し、これは大企業(同3.6%)より中小企業(同5.7%)にその傾向が強かった。
 一方、正規従業員の増員を検討する企業は、中小企業(同10.4%)が大企業(同6.7%)を3.7ポイント上回り、中小企業ほど雇用確保への動きが積極的なことを示した。
 コロナ感染拡大前の2020年1月まで、有効求人倍率は19カ月連続で最大1.5倍を超えるなど、中小企業の人手不足が続いた。こうした事態を繰り返すことを避けるため、業績が堅調な企業では、派遣社員やパートなど時給で雇用する非正規から正規雇用にシフトし、雇用の安定に動くことも想定される。

最低賃金引き上げ①

「正規雇用を削減する」と回答された方に伺います。その理由は?(複数回答)

6割以上が「現状の業績では賃上げ分を吸収できない」
 「正規雇用を削減する」と回答した理由の最多は、「現状の業績では賃上げ分を吸収できない」で65.1%(187社)だった。次いで、「業界の先行きを見通しにくい」が48.7%(140社)、「賃上げ分を自社のサービス、商品に転嫁できない」が42.5%(122社)で続いた。
 生産性向上などに繋げる「業務のデジタル化、省力化を図っている」は15.6%(45社)にとどまった。正規従業員の削減を検討する企業の大半で、理由に業績不振や経営面での先行き不透明感をあげた。こうした業種は、飲食・宿泊業、食料品などの製造業、印刷、アパレル関連が目立った。
 「その他」と回答した企業では、新型コロナで「いまある全事業所を維持するのが困難」、「減収であるため」など、厳しい業況を反映したコメントが寄せられた。

最低賃金引き上げ②

 2021年度の最低賃金は、全国加重平均で前年度比28円増の930円に引き上げられた。秋田県、青森県、島根県などこれまで最低賃金が700円台だった県を含め全都道府県で時給が800円以上となる。
 ただ、これでも最低賃金の地域格差は埋まらない。今回の引き上げ後も、最高の東京都(1041円)と最低の高知県、沖縄県(820円)とは221円の差が開いている。
 調査では約8割の企業が、今年度の最低賃金の引き上げが「自社の雇用施策に影響を与えない」と回答した。また、業績が堅調な業種を中心に、中小企業の約1割が今回の最低賃金引き上げのタイミングで正規従業員の増員や、非正規から正規への移行を検討する。
 アフター・コロナを見据え、雇用の確保に積極的な姿勢を示す企業がある一方、コロナ禍で業績低迷が長引く業種にとっては、今回の最低賃金の大幅引き上げは、今後大きな負荷になりかねない。特に、飲食・宿泊や観光、アパレルなどコロナの痛手を受けている業種は、元々人件費を低く抑えられるパート・アルバイト従業員に依存してきた。それだけにコロナ禍での業績低迷と合わせ、ダブルパンチで経営に直撃する事態も懸念される。
 コロナ禍で経営に打撃を受けた企業にとっては、2021年末まで適用期間が延長予定の雇用調整助成金の特例措置が雇用を守るセーフティネットの役割を果たしている。新型コロナの新規感染者数が再び全国で急増し、収束はまったく見通せない状況にある。コロナ禍の影響が長引く業種や企業には、今回の最低賃金引上げが短期的に負担を増すことも想定される。人件費の負担増で一部では雇用削減に動く事態も危惧されるだけに、非正規雇用を維持する新たな支援策も求められる。

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