歴史と向き合い、今伝える「へいわ」とは? 終戦インタビュー  絵本作家の浜田桂子さん

 2011年に刊行された「へいわってどんなこと?」(童心社)は、日本、中国、韓国の絵本作家が協力した平和絵本シリーズの第1作として生まれた。現在も版を重ね、香港版は昨年、優れた作品に贈られる「香港書奨」を受賞した。作者の浜田桂子さん(73)が絵本に込めた、国境を超えた平和への思いとは。(共同通信=渡具知萌絵)

絵本作家の浜田桂子さん

 ▽危機感

 ―3カ国で平和絵本のプロジェクトを始めたきっかけは。

 まず04年に、イラク戦争への自衛隊派遣に対する抗議として、絵本作家103人で「世界中のこどもたちが103」(講談社)という絵本を作りました。その後、一緒に実行委員を務めた田島征三さんから『次は東アジアの作家と平和絵本を作ろうよ』と持ち掛けられました。

 ―提案を聞いた時の受け止めは。

 正直「そんなことできっこない」と。でも当時は首相の靖国神社参拝や、歴史教科書から従軍慰安婦の記述が削除されるといった出来事がありました。「このままでは子どもたちが加害の歴史を知らずに育ってしまう」との危機感から、黙っていられなくなりました。

 ―中国、韓国の絵本作家には、どのように協力を依頼したのか。

 田島さんのほかに和歌山静子さんと田畑精一さんが呼び掛け人になり、4人で中国や韓国の作家に手紙を書きました。「3カ国の絵本作家が連帯し、1冊の絵本を作ることができたら意義は大変大きいのではないでしょうか。絵本は子どもの心に直接働き掛けられる媒体ですから」と。

中国、韓国の作家と同時進行の絵本作りについて話し合う(右から)田島征三さん、浜田桂子さん、田畑精一さん、和歌山静子さん=2009年1月

 ▽厳しい反応

 ―どんな反応だったか。

 中国の作家はすぐに賛同し、仲間に声を掛けてくださいました。その一方、韓国の方の反応は厳しく、「戦争を始める為政者も『平和のため』と言う。あなた方の言う平和もうわべだけのものなら、やる意味はない」と言われてしまいました。ただ「歴史を直視した上で、本当の平和を考えるなら良い提案だと思う」とおっしゃっていただき、韓国の作家に呼び掛けてくださることになったのです。

 ―日本のメンバー4人で06年に韓国、翌07年には中国を訪れた。

 現地の作家と直接会い、意見交換をしました。印象的だったのは、韓国で抗日運動の指導者らが収監された西大門刑務所跡地を案内されたことです。単なる武力行使ではない、植民地支配の罪深さを思い知りました。「表面的な平和を伝えるだけではいけない。自国の歴史と正面から向き合わねば」と、改めて身の引き締まる思いでした。

 ―元々はどのような平和絵本を作りたいと思っていたのか。

 2人の子どもがまだ小さかった頃、平和の絵本を読み聞かせると、下の娘は「暗くて怖い」と泣くんですね。上の子は「昔の子はかわいそう。僕は昔の子でなくて良かった」と言うんです。これでは子どもが自分に引き寄せて考えられていないなと感じました。

 戦争の悲惨さを訴えることは大事ですけど、平和の楽しさやうれしさを伝える絵本があってもいいと思ったんですね。当時はデビュー前の専業主婦だったのですが、その時の発想をプロジェクトで実現できるんじゃないかと考えました。

絵本作家の浜田桂子さん

 ▽大切な存在

 ―出版に至るまで何冊も試作品を作り、改良を重ねた。

 試作品を読んだ韓国の作家から、「無意識な日本の被害者意識が表れている。この本はアジアでは通用しない」と批判の手紙が届いたことがありました。子どもの視点で「へいわってせんそうするひこうきがとんでこないこと」と、受け身で書いた文があったからです。

 初めは腹が立ちましたが、よく考えると戦争の光景で思い浮かべるのは日本の原爆や空襲被害ばかり。日本軍の空襲で逃げ惑う中国の親子や、慰安婦になった朝鮮の女性の苦しみを、史実として知ってはいても、心で受け止めていなかったことに気付かされました。

 それと同時に自分の「子ども観」も考え直しました。子どもはいつも戦争の被害者だと思っていましたが、本当は大人に「そんなことしちゃ駄目!」と言える存在なんじゃないかと。結果的に「ばくだんなんかおとさない」と意志を持った言葉に変えました。より力強いメッセージが込められたんじゃないかと思っています。

 ―絵本を通して、子どもたちに一番伝えたいことは何か。
 「へいわってぼくがうまれてよかったっていうこと」です。全国の小学生から寄せられた感想文の中に「この絵本を読んで、初めて生まれてきて良かったと思えた」との声がありました。日本の子どもは他国に比べ、自己肯定感が低いと言われますが、命のつながりの尊さに気付けば「自分もあの子も誰かにとって大切な存在なんだ」と思えるはずです。そしてその思いが、平和な世界の実現につながっていくと信じています。

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 はまだ・けいこ 1947年埼玉県生まれ。84年に絵本「あやちゃんのうまれたひ」でデビュー。

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