TikTok84万人の野球女子「まつりの」ってどんな子? 今はSNSを“封印”するワケ

高知中央・松本里乃【写真:川村虎大】

超人気「ティックトッカー」の松本里乃投手は6月末に全てのSNSを封印した

史上初めて甲子園球場で23日に開催される全国高校女子硬式野球選手権の決勝。出場する高知中央には、SNSで話題の野球女子がいる。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」のフォロワー84万人超を抱える松本里乃投手(3年)。頻繁に発信を続けてきた18歳は今、そうそうたる決意で集大成の夏に挑もうとしている。【川村虎大】

コミカルな音に合わせ、野球のユニホームを着て可愛らしく踊る。「野球Girl」というアカウント名で、“まつりの”の愛称で知られる松本のもとには、ファンから段ボール箱いっぱいのプレゼントが届く。そんな超人気の「ティックトッカー」だが、現在すべてのコンテンツは非公開になっている。選手権開幕を1か月後に控えた6月末、全てのSNSに制限をかけた。

「周りの方々の声で頑張ることができたのはもちろんですが、夏の大会って、とても大事。女子野球をやっている人から見た時に、大会期間中に投稿していたら高知中央の印象を下げてしまうかなと思って」

コメント欄にはたくさんの応援メッセージが寄せられる一方で、すべての人が快く受け取ってくれるわけではないとも分かっていた。それに、最後の全国大会。まずは“本業”である野球に集中したかった。

兄が野球をしていたのがきっかけで、白球を追い始めたのが小学4年生のころ。「当時の私は勉強があまり得意ではなくて(笑)。兄が試合でヒットを打つと、お母さんが喜んでいたんです。その時に『野球をやっていればお母さんが喜んでくれる』と思ったのがきっかけです」。地元・佐賀の少年団に入り、中学校ではソフトボールに打ち込んだ。

再び野球をやりたいと思っていたころ、高知中央が女子野球部を創部したことを知った。1期生ということもあり、試合に出られるのではないか……。そう思い入部したが、練習の過酷さは想像以上だった。

きっかけは友人の投稿、徐々に女子野球への貢献や応援のコメントが原動力に

「とても厳しかったです。入ってたくさん落ち込みました」。何度も辞めようと思ったが「周りも一緒だからという気持ちで頑張ることができました」。つらい練習も、日本一という目標のためなら頑張れる。チームメートと一緒に乗り越えていった。

練習後の時間や休日に息抜きとして利用してたTikTok。まさか人生を大きく変える“転機”になるとは思ってもみなかった。練習着姿でチームメートと一緒に踊る動画が「オススメ」に載ると、瞬く間に拡散。当初は女子野球を広めたいという気はなかった。その一方で、人気になればなるほど、周りの目も厳しくなる。西内友広監督に「TikTokをやりたいのか、野球をやりたいのか。はっきりしろ」と厳しい言葉を向けられ、「野球をやめます」と言い返したこともあった。

ただ、“女子野球”という自らのアイデンティティを教えてくれたのも、TikTokだった。フォロワーは増え、コメント欄には「妹が野球始めました」「里乃さんが部活を頑張っているので、自分も部活を頑張れます」「ソフトボールをやっていたのですが、高校から野球部に入ります」といった声が多く寄せられた。「女子野球はマイナーなスポーツなので。人口増加に貢献できているというのが嬉しかったし、自分の力にもなった」。責任も感じつつ、応援の言葉が原動力にもなっていった。

今は「まつりの」をお休みして、野球に没頭する「松本投手」。120キロに迫る直球が武器の一方で、制球に難があった。西内監督や1学年下のエース・和田千波留投手にも相談し、体が開かないフォームに改造。「今は自分で言うのもなんですが、すごく調子がいいんです。フィットしてきました」。3週間の試行錯誤で制球は改善し、テンポもよくなった。

最後の夏は、和田の後ろで控える。「日本一と甲子園が一緒に叶う。決まった当時は嬉しかったですが、緊張に変わってきました」。高校野球を終えても、専門学校に進んでプレーは続けるつもり。「野球も、動画投稿も、続けていきたいと考えています。夏大会が終わったらまた投稿を始めて、女子野球の良さを伝え続けたい」。日本一を獲って、またSNSで元気な姿を見せたい。

【動画】フォームは綺麗で豪快…人気TikToker”まつりの”松本里乃投手の投球映像

【動画】フォームは綺麗で豪快…人気TikToker”まつりの”松本里乃投手の投球映像 signature

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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