米FRBテーパリング決定は年内か、今後の米金利と日米株価の動きを徹底予想!

一般に、米国の市場金利の動向と、日米株価の相対的な値動きには一定の関係があることで知られています。それは米国の市場金利が上昇する際に、米国株(S&P500)よりも日本株(TOPIX)の方が上がりやすいという特徴です。

また、米国での金利上昇には、景気回復期待の高まりを伴うことが多く、景気に敏感な銘柄が物色される傾向があります。

株式市場を構成する銘柄の特徴として、日本株には景気敏感株が多く含まれており、米金利が上昇し、景気敏感株が買われる局面では、日本株が米国株に対して相対的にアウトパフォームしやすいと考えられます。

FRB(米連邦準備理事会)は18日、7月のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨を公開しました。市場ではテーパリング(金融緩和の縮小)の開始時期にさらなる注目が集まっています。今後の米国の市場金利は上昇へと向かうのでしょうか。


米金利動向を見極める上で雇用動向に注視

米市場金利は当然のことながら、FRBによる金融政策の影響を強く受けるわけですが、それを占う上で重要視されるのが、米国の雇用動向です。

8月6日に発表された7月分の米雇用統計を受けて、米10年国債の利回りは一時1.3%台まで上昇しました。足元では再び1.2%台まで低下していますが、雇用の回復を受けて金融政策の引き締めが意識されると、市場金利も上昇で反応するという関係にあります。

7月の米非農業部門の雇用者数は前月から94.3万人の増加となりました(事前の市場予想は87万人程度)。それと同時に6月分の値も当初の85万人増から93.8万人増へと上方修正されました。これで100万人近い雇用の増加が2カ月連続したことになります。

コロナショック後の雇用の回復状況をリーマンショック時と比較すると、今回はすでにリーマンショック時の最悪期を上回る水準まで改善を示してきています。しかし、コロナショック前との比較では、雇用者数は570万人ほど少ない状態で、月間100万人の増加ペースでも、元に戻るには半年ほどかかる計算です。ただ、市場では9月以降の雇用の急回復を予想する声もあり、実際には半年もかからないかもしれません。

米FRBによるテーパリング決定のタイミング

では、順調な雇用の回復を受けて、米FRBはどのタイミングで金融政策の変更(資産買取規模の縮小:テーパリング)を決定するのでしょうか。次回のFOMCは9月21~22日に予定されていますが、それより前に8月分の雇用統計が発表されます。

新型コロナの感染拡大で8月分の雇用統計は予測が困難ですが、仮に8月分の数字が強くても、9月のFOMCでテーパリングが決定される可能性は限定的とみられます。7月のFOMCでは、「今後複数回の会合」で経済の進展を検証する旨が指摘されており、9月は時期尚早というわけです。

8月分の雇用統計が強くて、急回復が予想されている9月分の雇用統計がやはり強いということになると、11月FOMCでのテーパリング決定が現実味を帯びてきます。もし、10月分の雇用統計まで確認したい、ということになると11月のFOMCには間に合わないので、12月FOMCまで決定が先送りされることになるとみられます。いずれにしても、テーパリングの決定は11月か12月のFOMCの二択になりつつあると考えられます。

筆者は12月FOMCでの決定を予想していますので、11月だと想定よりやや早いイメージですが、高々1カ月の違いなので、50歩100歩で大差はないといえるかもしれません。いずれにせよ、現時点で米金融政策の引き締めに向けた時間軸は、既定路線に沿ったかたちで進んでいるといえるでしょう。

そうした動きに合わせて、米10年国債利回りは、テーパリングが決定される年終盤に向けてもう一段階、水準を切り上げることが予想されます。

米金利上昇による株価へのダメージを業績改善がカバーする構図に

米市場金利の上昇は、堅調に推移する米国株にとって、「不都合な真実」となるのでしょうか。それは、米FRBの金融政策の舵取り次第といえるかもしれませんが、金融引き締めに向けた取り組みが、景気回復を妨げないペースで進められる限り、その答えは「ノー」です。

足元の米企業業績は好調に推移しています。2021年の上期は前年との比較で大幅な増益を達成し、通期では4割超の増益となることが見込まれています。

しかし、2022年の業績について、市場の見方は依然として保守的で、9%程度の増益見通しにとどまっています。足元の実績が良好でも、先々の見通しの引き上げに今一つつながっていないのが実情です。果たして、そうした見方は妥当なのでしょうか。

7月の終わりに公表されたIMF(国際通貨基金)による世界経済見通しでは、引き続き、米国景気に対して強気の見方が示されました。2021年の米経済は7%の成長、続く2022年も5%近い成長が予想され、新興国並みの高い成長を遂げる見通しとなっています。

過去の米マクロの経済成長率(実質GDP成長率)とミクロの増益率(S&P500ベース)の関係にあてはめて考えますと、2021年のマクロ7%成長下での、ミクロ4割増益はほぼ整合的といえます。

しかし、2022年の5%近いマクロの成長下では、本来2割超の増益が達成されても不思議ではないのです。それが、足元の市場予想では9%程度の増益見通しにとどまっており、予想は保守的と言わざるを得ない状況です。

米国株の健全な上昇は続く見通し、日本株にも支援材料に

9月のFOMCでは、3カ月に1度の当局者らによる経済・金利見通しが公表されます。新型コロナの感染再拡大がFRBの見通しにどのような影響を与えるかは非常に興味深いところですが、着実に経済の正常化が進むという前提が揺るがない限り、ある程度の米金利の上昇は必然的な面がありそうです。

金利の上昇は株価には下向きの圧力となりがちですが、仮にそうだとしても、上述のような業績改善によって十分カバー可能だと思われます。米国市場では今後も業績相場が継続するとみられますし米国株の健全な上昇が続くこと自体は、日本株にもポジティブに働くと思います。むしろ、それは日本株の出遅れ感・割安感を強調するような効果さえ、もたらすのではないかと考えています。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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