育成重視と相反する巨人「救済トレード」 拾われた中田翔を待つイバラ道

巨人ユニホームに身を包んだ中田翔を原監督は笑顔で迎えた

巨人は20日、日本ハムでチームメートに暴力行為を働き、出場停止中だった中田翔内野手(32)の獲得を電撃発表した。処分はこの日付けで解除となった。

自らの愚行を猛省し、引退も覚悟していた中田にまさかの巨人が救いの手を差し伸べた。中田のトレード移籍は大きな反響を呼んでいるが、球団にとっても異例尽くしの獲得となった。

巨人では原監督が指揮官に復帰した2019年以降にチーム内に埋もれた戦力の「飼い殺し」を撤廃。環境を変えさせることで所属選手を再生、選手生命をまっとうさせる方針に大転換した。今やメジャーで活躍する澤村が好例で、20年9月にロッテに移籍して大化けした。今回はその〝逆パターン〟で、日本ハムをはじめとする球界内で居場所を失った中田を引き入れて再生を狙う初の獲得劇となった。

さらに、最近の巨人が補強以上に力を注いでいるのが育成だ。球団幹部は「優勝するために足りないポジションへの補強は必要だが、ウチは下から育てていかないといけない。発掘と育成。勝ちながら育てることは本当に難しいことだけど、試合で使っていけば、松原のように伸びる選手も出てくる。だから我慢しながら使っていかなければいけない」と強調していた。

補強を必要最小限にとどめ、球団全体で育成力を高めて常勝軍団の礎を築く。そのため、特に近年は以前に巨人に在籍した山口を除き、メジャーに挑戦、またはメジャーで夢破れた際に実績ある大物日本人選手の獲得に動くことはなかった。

中田が守ることになる巨人の一塁では、シーズン途中でスモークが退団する誤算も起きた。しかし、すでにウィーラーや中島のベテラン勢に加え、流動的ながら香月や北村らの若手も控えている。チーム最大の目標はリーグV3と日本一奪回。中田が31本塁打、108打点をマークした昨季のような活躍ができれば、若手の出場機会を阻害するどころか大きな戦力となる。ただ、故障や不振に苦しんだ今季はここまで打率1割9分3厘、4本塁打、13打点。そうした状況を踏まえた上でも、巨人は中田の〝救済〟を買ってでた。

かつての輝きを失い、信頼まで裏切った中田を、編成トップの原監督と大塚球団副代表は「戦力」として見込み「一人のプレーヤーとしてこのまま殺しちゃダメだ。もう一回生かすんだ」と重い決断を下した。いっそう厳しい視線にさらされる中、中田は原巨人の恩義に報いることはできるのか。

© 株式会社東京スポーツ新聞社