Red Bull MUGEN NSXとMOTUL GT-R、悲喜交々の予選上位。GRスープラ勢全車Q1敗退の要因【GT500予選あと読み】

 スーパーGT第3戦鈴鹿の予選は、各陣営にとって悲喜交々の結果となった。ドライコンディションならば予選上位が予想されたダンロップ陣営の2台がフロントロウを独占し、この鈴鹿戦を勝負ラウンドに見据えていた23号車MOTUL AUTECH GT-Rが3番手に入り、予想通りの展開となった一方、GRスープラ陣営がまさかの全車Q1ノックアウトと、想定外の結果も見られた。それぞれの陣営の声を聞いた。

 まずは優勝も狙える予選2番手と、好結果を残した16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(サクセスウエイト16kg)だが、予選直後のドライバーふたりはショックを隠しきれない様子だった。その理由は、2番手とはいえ、ポールを獲得した64号車Modulo NSX-GT(SW2kg)とのギャップにあった。同じタイヤを装着しながら、予選Q1では0.8秒差、セットアップをアジャストして臨んだQ2でも0.2秒差で64号車に敗れてしまったのだ。

 予選Q1を担当した16号車の笹原右京が振り返る。

「悔しいです。相手が64号車だけに、より悔しいという気持ちがあります。アタックも結構、まとめきれて頑張ったなと思っていたら、コンマ8秒も違うクルマが前に一台いて……本当に64号車は速かったです。僕らの方で何か足りない要素があって、負けているというのはハッキリしていたので、Q2に向けてクルマにも変更を施したのですけど……とにかく悔しいです」

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(笹原右京/大湯都史樹)

 その0.8秒差をピットで見ていたチームメイトの大湯都史樹も「あの差を見た時にはもう、絶望感しかなかった」と振り返る。

 それでも、Q1とQ2の短い時間のなかで笹原のフィードバックをもとにクルマのセットアップをアジャストして、クルマは改善し、大湯はトップの64号車と0.2秒差までギャップを縮める2番手を獲得した。だが、それでも予選後の大湯は呆然としたままだった。

「タイム差だけで言えばコンマ2秒ですけど、実際には(64号車と)かなり大きな差、分厚い壁があるなと。フリー走行のときから薄々感じていましたけど、ここまでの差になるとはさすがに思っていませんでした。右京選手のフィードバックでクルマもいい方向に行って、僕もGT500にステップアップしてきてこれまで何周も走っていますけど、そのなかでも本当に一番いいアタックラップで、完璧に近いラップだったんです。感触はもう、これ以上ないくらい良かったんですけど、コンマ2秒、ちょっと大きな差がありますね……」

 大湯が自身のGT500史上、最高のアタックをしたにも関わらずのコンマ2秒差。16号車のふたりには、喜びの様子はまったく見られなかった。「明日はドライよりも、雨が降った状態でドライタイヤを履くような微妙なコンディションがいいですね」と大湯。裏を返せば、ドライでは64号車に敵う術がないということでもあった。

 一方、予選3番手で満足な笑みを浮かべるのは23号車のMOTUL AUTECH GT-Rのふたり。この鈴鹿は昨年2戦2勝、今回のサクセスウエイトが4kgと絶好の条件が揃っているなかで、予選2列目を獲得した、予選Q2を担当したロニー・クインタレッリがアタックを振り返る。

「まあまあのアタックでした。クルマのフィーリングはタイムよりも良かったと思いますし、1分45秒台の真ん中あたりかなと思ったけど、(実際は1分45秒7で)あれっ!? と。セクター1でタイヤが完全には温まりきれていなかったので、そこでちょっとロスがあったかな。セクター2以降はいっぱいいっぱいでアタックできました。フィーリングがよかったので、もうちょっとタイムが出ても良かったかなとは思いますね」

「予選の結果としては予想どおり。(ダンロップの)2台の前に行くのは難しいと思っていたので、3番手は狙いどおりでいい順位だと思います。決勝は展開としては去年と同じような流れになると思うので(2020年第3戦鈴鹿では予選2番手から逆転優勝)、天候次第ですがタイヤのマネジメントとピットインのタイミングをしっかりできれば、いいレースができると思います。もちろん、明日は優勝を狙っていきます」

 予選Q1で4番手タイムをマークしたチームメイトの松田次生も、今回の鈴鹿に手応えを感じている。

「予選で選んだタイヤが朝に走行したのと違っていて、ウォームアップが探りながらの走行になってしまって、セクター1でタイヤが温まりきっていませんでした。だけどその分、セクター3がすごくグリップがよくなって、アタック的にはだいぶ失敗したかなと思っていたんですけど、フリー走行の時よりコンマ1秒速くなっていた。セクター1をうまくまとめられれば、あとコンマ1秒くらいは行けたかもしれないですね。明日はもう、粘って粘って、優勝を狙っていくしかないと思っています」

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 松田次生(MOTUL AUTECH GT-R)

■予想外の“GRスープラ全車Q1敗退”。その要因はタイヤ選択か

 上位3台はある意味、予想通りの展開となった今回の予選。一方、今回の一番の予想外となったのは、GRスープラ勢の全車Q1落ちというサプライズだ。特に39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supra(SW28kg)、38号車ZENT CERUMO GR Supra(SW16kg)は今回、優勝争いに加わることも予想されていたため、大きな驚きとなった。

 予選Q1を担当して10番手に終わった38号車の石浦宏明が振り返る。

「クルマのバランスはそこまで悪くなかったですし、アタックも普通に行けたのですけど、相対的にスープラ勢が厳しいですよね。どういう理由でこんなに苦戦しているのか、その原因が何なのかは分かっていません。前回のもてぎの時は明らかにクルマのバランスがうまくいってなかったのですが、今回はそこまで悪くはないと思っていたのですが……」

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 石浦宏明(ZENT CERUMO GR Supra)

 サクセスウエイトが54kgと重いKeePer TOM’S GR Supraも14番手。サクセスウエイトが52kgの17号車Astemo NSX-GTがQ1で7番手、Q2で6番手となっていることからも、今回のGRスープラ勢が異常事態に陥っていることがわかる。

 予選Q1を担当したKeePerの平川亮に聞く。

「アタックの時にダンロップコーナーでちょっと飛び出してしまったのですが、それでもコンマ1~2秒くらいのロス。朝はクルマのセットアップは良くなかったですが、そこから変更して予選の時にはフィーリングが悪くなったので、10番手くらいかなと思っていたらほとんどブービー(14番手)で驚きました」と平川。

 平川も石浦と同じく、クルマのフィーリングに大きな違和感があったわけではなく、アタックで大きなミスをしたわけではない。取材を進めて行くなかで、今回のGRスープラ勢のQ1落ちの大きな要因として、ブリヂストンユーザー勢が選んだタイヤが温度レンジの面で今回のコンディションにマッチしていなかったという点が挙げられる。

 今回の鈴鹿は中高速コーナーが多く、路面もタイヤも厳しい。その路面の特性とGRスープラの相性から、同じブリヂストンユーザーでもホンダNSXとトヨタGRスープラ、さらにはレクサス時代から鈴鹿ではワンランク、コンパウンドが異なり、GRスープラがいわゆる硬めのハードタイヤを選ぶ傾向にあった。

 その硬めのタイヤを選んだ状態でこの時期、快晴となれば40~50度を越えることもある状況で、この週末の雨、曇りの30度前後の路面温度。つまりは、ブリヂストンユーザーのGRスープラ勢はタイヤ選択を外してしまった状態が考えられる。

 明日の日曜日の天候も、土曜日と同様に曇り~雨の予報で、大きく気温が上がる見込みは少ない。そうなると、ブリヂストンユーザーのGRスープラ勢が巻き返すチャンスはほとんどなくなることから、ウエットコンディションを望む声が聞こえている。

 今回フロントロウを独占したダンロップ陣営にしても、昨年の第3戦鈴鹿ではポールポジションを獲得した64号車が序盤戦でタイヤのライフが厳しくなり、ペースが落ちてトップを23号車に奪われてしまったが、それも明日の天候次第でどこまで周回数を稼げるのかが大きな分岐点になる。

 暑さを望む声があれば、ダンプコンディション、そして雨を望む声もあり、明日の天候、コンディション次第でGT500クラスはさまざまなドラマが見られる展開になりそうだ。

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/阪口晴南)

© 株式会社三栄