横浜市長選で本格化した「落選運動」とは? 今後の日本に根付くのか…弁護士・横粂勝仁氏が見解

弁護士の横粂勝仁氏

アイツを落選させろ――。22日投開票の横浜市長選挙で、野党が推す元大学教授の山中竹春氏(48)が当選したが、選挙戦では候補者同士の戦いだけでなく、場外乱闘にも注目が集まっていた。今回の選挙では、小此木八郎氏(56)と山中氏に対する〝落選運動〟が繰り広げられていた。果たして選挙における落選運動は今後、日本に根付くのか?

投票が締め切られた午後8時に当確が打たれるほど、山中氏の圧勝だった。山中氏は「初めての選挙戦で慣れないことばかりだったが、本当にうれしく思う」と素直に喜んだ。一方、敗れた小此木氏は「これからどういうふうに地域に貢献できるか考える」と発言。もう選挙には出ないとまで語った。

秒殺とはいえ、山中氏も順風満帆ではない。告示直前にパワハラ疑惑が噴出したからだ。当選しても疑惑を払拭できているとは言い切れず、推薦した立憲民主党内でも新たな疑惑が持ち上がった時にどうなるか不安の声も。「一部メディアでスキャンダルが報じられるようだ」ともささやかれてもいる。

そんな山中氏は、小此木氏とともに落選運動のターゲットになっていた。仕掛けたのは弁護士の郷原信郎氏だ。同市長選への立候補を表明しながらも取りやめていた郷原氏は、新聞のようなビラを作ってホームページ上で公開。菅首相批判と山中氏のパワハラ疑惑を中心に訴えていた。

郷原氏はビラ上で、落選運動について「選挙において特定の候補者の落選を促す政治活動のことで、公職選挙法142条の5もしくは221条等に〈当選を得しめない目的をもつて(する活動)〉と明記されている」と主張。落選運動は政治活動というわけだ。

落選運動について、元衆院議員で弁護士の横粂勝仁氏は「専門ではないが」と前置きしたうえでこう指摘した。

「郷原氏の解釈は、選挙運動ではなく政治活動だからOKというもの。誰かを当選させるための運動は選挙運動となるが、郷原氏は誰の当選も目的としていないから政治活動ということなのでしょう。しかし、私の解釈は違います。今回行われたものはやりすぎではないか」

郷原氏の作成したビラは、実際に街中で配布されていたという。

「落選運動が政治活動というのは正しいですが、選挙期間中は政治活動が制限されるというのが私の解釈です。選挙期間中もネットを利用した政治活動は認められていますが、街頭演説やビラ配布などの政治活動ができるのは確認団体だけ。証紙の貼ったビラしか配れません。勝手に配れないのではないか」(横粂氏)

郷原氏はツイッターで「公選法上、『落選運動』には期間の制限がありません。事前運動の規制もありませんし、投票日当日も可能です」(21日のツイッター)と強調している。

落選運動の是非はともかく、落選運動というものが注目を集めたのは事実だ。今後、日本の選挙において落選運動は根付くのか? 横粂氏は「一定のニーズはあるが、個人的には好きではない。誰かのことをダメというのなら、『私かほかの誰かを選ぶべき』とやるべき」と、ただ特定候補の落選を訴えるより〝代案〟を提示した方がいいという。

つまり自分が選挙に出るか、ほかの誰かを応援するかだ。「郷原氏が出馬して、正々堂々とやればよかった。ターゲットにされた2人としても、郷原氏から戦わずして攻撃されたのでは恨みつらみが残るだけでしょう」と横粂氏は話した。

落選運動が根付くにはもう少し時間がかかるかもしれない。

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