今季は前半戦だけでキャリアハイの8勝、苦しむ先発陣の中で奮闘
若き右腕がエースへの階段を上っている。プロ7年目を迎えたロッテの岩下大輝投手は、今季前半戦で8勝をマーク。美馬学、石川歩らの離脱があった中で、ローテーションを守った。「皆さんに助けられて良い数字で前半は終わることができた」と謙遜するが、既に昨年の7勝を超える勝利数。若き右腕の奮闘がチームを支えた。
「まっすぐも力強く投げられていると思いますし、カウント取る球が増えたというのが一番大きい」と今季の投球を振り返る。これまでは投球のほとんどを直球とフォークが占めていたが、先発として結果を残すには厳しいと感じ、カーブやスライダーを使うようになった。
「先発する中で、3巡目が来た時に苦しむ投球が多かったので、どうにかして長いイニング投げないといけない。組み立てたいなと思った時に、さすがに2球種では……と思って去年から投げています。(この2球種で)ストライクを取れるのは大きいかなと思います」
球速も追い求めている。「僕はスピードが1番武器になると思っているので、速ければ速いほどいい。上げれるなら上げたいです」。同僚の佐々木朗希にもアドバイスを求めるという。「ちょくちょく『どういうイメージで投げてるの?』と、たまに聞くんですけど、やっぱり天才なので……。僕には分からないことはあったりします。感覚的に良かったところは自分のものにしようかなと思うんですけど、できないことはキッパリあきらめます」と苦笑いする。
9回に8点差をひっくり返した2014年石川大会決勝が分岐点に
今やチームの勝ち頭にまで成長したが、プロ入団前の岩下の知名度を上げたのは間違いなく「ミラクル星稜」だろう。
高校3年夏の2014年石川大会決勝。小松大谷を相手に0-8と大きく差を開けられたが、9回裏に打者13人の猛攻で一挙9点を叩き出し、劇的サヨナラ勝利。奇跡的な勝利から「ミラクル星稜」と呼ばれた。
しかし岩下は「総合的に見たら良い思い出です。でも個人的には悔しいイメージの方が残る試合ではありますね」と7年前の夏を振り返る。
この試合、先発した岩下は3回6失点。9回に再度マウンドに上がり3者連続三振に抑え、その裏に自身も2ランを放ち、劇的サヨナラ勝利に貢献したが、エースとして投球で試合を作ることができなかった。
小松大谷とは2年秋、3年春にも対戦。当然、対策を練ってきていた。「後々、選手から聞いた情報だと色々研究されていたみたいで、上のレベルの野球ってこういうことなんだなと感じました」。甲子園に出場しプロ入りする上で「良い勉強になった試合でしたね」と振り返る。
「神がかっていたなと思います。そのおかげでプロに入れた。もう一度ちゃんと見てもらえる場所まで連れて行ってくれたので、仲間には感謝しています」
プロ入り後3年間は怪我に苦しむも「あまり暗くなることはなかった」
プロ1年目の10月に右肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)を受け、3年目にはヘルニアの手術も経験。幾度となく怪我に悩まされたが、高校時代に、諦めないことの大切さは誰よりも実感している。悲観することなく、前向きにリハビリに取り組んだ。
「あまり暗くなることはなかったと思います。やれることが増える日々を過ごしていく中で、楽しさを感じつつリハビリすることができたかなと思います」
もちろん不安がないわけではなかったが、まだこれからの野球人生。焦らず怪我を治し、4年目の2018年に1軍初登板。1勝を挙げ、翌年以降は5勝、7勝と勝ち星を伸ばしてきた。
「前半戦はある程度試合を作れることが多かったですし、前半の結果に驕らず、自分のできることを継続してやりたいなと思います」
怪我にも屈することなく、順調に結果を積み重ねてきた。後半戦も躍動し、エースとして大成するシーズンにする。(上野明洸 / Akihiro Ueno)