仮面女子・猪狩ともか「障がい=かわいそうではない」 パラアスリートは全員が唯一無二

猪狩ともか

いよいよ幕開けだ。新型コロナウイルス禍で1年延期となった東京パラリンピックの開会式が24日に国立競技場で行われ、12日間にわたる熱戦がスタート。東京でのパラリンピックは1964年に続いて2度目。同一都市での複数回開催は夏季大会史上初となる。大会コンセプトの一つである「多様性と調和」の実現に向け、かねてパラスポーツの普及に尽力してきたアイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともか(29)が祭典の見どころ、思いなどをざっくばらんに語った。

――ついに東京パラリンピックが開幕した

猪狩 1年待ってやっと開幕しました。待っていましたっていう気持ちです。全員が100%納得する大会にするのは難しいことだと思いますが、東京五輪を開催していた時期に、SNSで「私は病院で働いていて、コロナですごく大変だけど、なんだかんだ五輪のメダル速報やハイライトを見て励まされているし、元気をもらっている」と言っている医療従事者の方もいたので(東京パラを)開催することによって、世界中を元気にできるものだと思っています。やるとなったからには、全力で応援したいです。

――2019年からはパラ応援大使として活躍している

猪狩 自分がケガ(19年4月に脊髄を損傷)をする前は、正直パラにほとんど興味を持っていなかったですが、ケガをしたことによってパラスポーツを知って、知れば知るほどすごい楽しいものだし、選手の頑張っている姿に元気や刺激をもらっていました。そういったパラスポーツの素晴らしさを、少しでもたくさんの方に伝えるお手伝いができたらいいなっていう思いで活動しています。

――選手と接する中で感じたことは

猪狩 最初のころは漠然と障がいのある人がスポーツをしているっていうような認識ぐらいしかありませんでしたが、練習方法や戦い方、一人ひとりの体の状態に合わせた戦略があったりして、全員が唯一無二だと思いました。今はコロナ禍でいろんなことが制限されながらも、いろんな工夫をしています。例えばライブでは、観客を減らして客席の間を空けるなどの感染対策を施しています。選手も工夫しながら今できる最大限のことをやっていて、今の世の中とパラは共通している部分が多いと思います。

――選手たちの工夫を感じた瞬間は

猪狩 腕にも障がいがある海外の車いすテニスの選手がテニスラケットを腕にぐるぐる巻きにして固定していて、さらに足でボールを挟んでトスを上げてサーブを打っていた姿にすごくびっくりしました。そんなのパラを知る前は想像をしていなかったです。卓球でも両腕欠損の選手が口でラケットをくわえていました。見ている側が「え? そんなの可能なの?」って思うことをさらっとやってのける方々がパラの世界にはたくさんいます。そういったところもびっくりするポイントですが、選手にとってはそれが当たり前なので、なんかすごい世界だなと思います。

――猪狩さんが注目する選手は

猪狩 車いすラグビーの倉橋(香衣)選手ですね。車いすラグビーって男女混合なので、何も知らない人はまずそこでびっくりすると思います。車いすラグビーはすごい激しくぶつかり合うし、そんな中に女性がいることにびっくりしてほしいですね。倉橋選手は先読みして相手の動きをブロックするのを得意としているので、観戦するときはボールだけを追うんじゃなくて、倉橋選手の守備に注目してみると、楽しみ方がさらにプラスされていくと思います。

――大会を通じて感じてほしいことは

猪狩 選手を見て「障がい=かわいそう」っていう考え方がちょっとでもなくなってほしいです。もちろん障がいの当事者の中には「自分は不幸だな」って思っている人もいるかもしれませんが、そうじゃない人が多いと思うので、障がいをあまりネガティブなものとして見ないような人が増えていくとうれしいですね。障がいのある人が当たり前のように社会にいるってことが皆さんの頭の中に入ってほしいです。それこそ共生社会の実現に向けた大きな一歩になってくれたらいいなと思います。

☆いがり・ともか 1991年12月9日生まれ。埼玉県出身。2017年からアイドルグループ「仮面女子」に加入。18年4月に強風で倒れた看板が直撃して脊髄を損傷。車いす生活となったが、約4か月半のリハビリを経て、ステージへの復帰を果たした。現在はアイドル以外にも活動の幅を広げ「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会」のメンバーに選出。東京都の「パラ応援大使」も務めるなど、パラスポーツの普及に尽力している。154センチ。

© 株式会社東京スポーツ新聞社