「一番変わったのはレース週末のアプローチ」アグレッシブさを増した走りが奏功/FIA-F3岩佐歩夢インタビュー(2)

 今季のFIA-F3選手権は、コロナ禍の開催とあって開催ラウンドは7つに絞り、その代わり各ラウンドで3レースを詰め込む変則的なフォーマットだ。しかもレース1、2は12番手までがリバースグリッドで行われ、最後のレース3だけが通常グリッドで行われる。

 いずれにしても予選で12番手までに入れなければ、上位入賞は非常に難しい。岩佐選手の所属するハイテックGPは、どちらかといえばレース重視のマシンセッティングを施すことが多く、そこもシーズン前半の苦戦の一因だった。一方で岩佐選手は、自身のドライビングについて「週末のアプローチにアグレッシブさが足りなかった」と語る。

 第4戦ハンガリーでの待望の初勝利は、まさにそのアプローチを変えたことが奏功した。エンジニアとの共同作業もさらに濃密にできているとのことで、後半戦ではいっそうの活躍が期待できそうだ。

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──今年は新型コロナウイルスの影響で、1ラウンド3レースという変則的なフォーマットで行われています。

岩佐歩夢(以下、岩佐):特にハンガリーのような抜けないサーキットでは、予選結果が3レースすべてに大きな影響を及ぼしてしまいます。そこは厳しいところですね。予選で前に行けたかどうかで、獲得ポイントに大きな差が出てしまいますから。でも前向きに捉えれば、予選でトップ12番手までに入れれば、上位でバトルができるし多くのことを学べる。自分に今まで足りなかった部分を見つけることが、このフォーマットのおかげでできていますね。

──ドライビングで言うと、以前ホンダの山本雅史マネージングディレクターと話した際、「岩佐にはアグレッシブさが足りない」と、辛口評価でした。

岩佐:そこはまったくその通りで、開幕戦からアグレッシブさは足りていないと自分で感じていました。なかでもレース週末のアプローチの点での、アグレッシブさですね。レースが終わった後も、ずっとそれについて考え続けていて、一番変わったのがハンガリーでのレース週末の入り方でした。今までは限界の90%、95%で入っていって、徐々に限界を見つけて行ったんです。そこでぶつけてしまったら、おしまいですから。でもハンガリーでは、フリー走行1周目から105%でいく。各コーナーでブレーキロックしたり、飛び出してもいいからぐらいの勢いで、プッシュしていった。そこから少しずつ戻ってくる、そういうアプローチにしてみました。

 その結果、フリー走行中はほとんどトラックリミットをはみ出したり、飛び出してタイムが出せなかったりしましたが、でも最後の周にタイムをまとめられて、それが予選結果につながったのかなと思っています。特にハンガリーは走ったことがなかっただけに、少しでも早く限界を見つけて、コース特性、どこでタイムを詰めていけばいいのかを掴んで、予選に向けてアジャストできた印象です。やはりそういうアプローチが、前半での課題だったと改めて思いましたね。

2021年FIA-F3第4戦ハンガリー 岩佐歩夢(ハイテックGP)

──ひとくちにアグレッシブさと言ってもいろいろな意味があると思いますが、山本さんは特にレース週末のアプローチでのアグレッシブさが足りないと言いたかったのでしょうか?

岩佐:はい。もちろんドライビングにしても、一発アタックはもっと限界まで攻めろと言われましたけど、それより大きかったのがアプローチでしたね。徐々に限界まで詰めていくのと、1回行きすぎて戻るのでは、到達する時間がかなり違うなと実感しました。F3では45分の練習しかなくて、4回か5回のプッシュで終わってしまう。そこでセッティングを詰めておいて、予選では100点のドライビングというようにするためには、無駄に時間を使う余裕はない。そうなるとフリー走行では、アグレッシブなアプローチで行くしかないです。

──今後上のカテゴリーに行くとき、そこは大きな引き出しになるでしょうね。

岩佐:そう思います。

──後半戦は残り3ラウンド12レースなわけですが、今週末のスパはフランスF4でレース経験があります。とはいえF3では、ずいぶん感触は違うでしょうね。

岩佐:はい。車載映像を見ても、特に高速コーナーでのダウンフォースの効き方は全然違います。ですので運転の仕方は変わってくるでしょうね。ただトラックの使い方や、細かなバンプの場所、「F3だとここは使えるけど、ここはダメだろう」というのは、昨年走ったことで予測はついてます。その点はハンガリーよりは余裕がありますね。

──後半の目標はもちろんより多くのポイント獲得ということだと思いますが、そのためには予選のパフォーマンスを上げることですね。

岩佐:レース3で好結果を上げるのが一番ですから、そのためには予選で上位に食い込んでレースでもいいペースで走る。その流れを目標にしてやっています。

2021年FIA-F3第2戦フランス 岩佐歩夢(ハイテックGP)

──同じクルマのふたりのドライバー(ジャック・クロフォード、ロマン・スタネ)とは、ライバルという感じですか。あるいはより速く走るための共同作業の仲間という感じ?

岩佐:ふたりとはクルマについてじっくり話す時間もあまりないですし、さっきも言ったようにスタイルや方向性、セッティングの好みも違いすぎる。ですので「そうだよね」と共感する部分は、あまりないです。話を聞いていても、そんなふうに感じてるんだと、驚く方が多いです。あとは他のドライバーの分析とか、評価ですね。こういう走りだよねとか、こういう動きをするよね、みたいな。

──エンジニアとのコミュニケーションは、F4時代と比べて濃密にできていますか?

岩佐:ええ。フランスF4はスクール形式ですし、エンジニアも何人かのドライバーを掛け持ちで担当している。なのでじっくり話す時間もなかったです。セットアップ自体も、ほとんど変えられないですし。それがF3では、疑問に思ったり自分で閃いたりすることがすごく多くて、それをエンジニアに伝えたり、ドライビングについてアドバイスを求めたり、コミュニケーションははるかに増えていますね。

2021年FIA-F3第1戦スペイン 岩佐歩夢(ハイテックGP)

──メンタル的な部分も今後一層重要になると思いますが、メンタルトレーニングを意識してやったりしていますか?

岩佐:特に意識してはやっていません。それよりもたとえばシミュレーターで、今までダメだったアプローチをエンジニアの助けを借りて修正したり、それはずいぶんやっていますね。

──自分は性格的に、図太い方だと思いますか?

岩佐:いやあ(笑)そんなことはないと思っています。でも今年はメンタルで予選やレースを失敗したり、ミスしたりはないですね。逆にいうと、まだそこまで行けていないと思ったりもしてますけど。とにかく今は、自分のドライビングを含めてもっと精度を上げて、速さと強さを身につけたいです。

──不本意な結果に終わったとき、自分のなかでどう納得させていますか。

岩佐:今年に関しては2回、ポールリカールとレッドブルリンクで、自分のミスとそれ以外の理由で残念な結果に終わっていますが、後者はオンボードカメラ(の問題)で失格になりました。それはチームのミスでもないのですが、エンジニアやメカニックがすごく落ち込んでいました。でもあのレースは僕自身予選までかなりミスもあって下位に沈んでいたのを、追い上げて上位に進んだ展開でした。失格自体は残念でしたし、あれがなかったらレース2は上位グリッドからの好結果が期待できました。だけど、落ち込んでいてもしょうがない、このままだとレース2、3でもっと悪い方向になると、切り替えることができましたね。

 レース2は最下位30番手からのスタートでしたけど、レース1以上の追い上げを見せるぞ、みたいな感じで、自分のなかで切り替えられました。あのレースを振り返ると、自分のメンタルは決して悪くないのかなと実感できましたね。

2021年FIA-F2第3戦オーストリア 岩佐歩夢(ハイテックGP)
2021年FIA-F3第4戦ハンガリー 岩佐歩夢(ハイテックGP)

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