「アンダー傾向が強くて予選で苦労した」セッティングに課題を抱えた前半戦/FIA-F3岩佐歩夢インタビュー(1)

 今季、FIA-F3選手権に参戦中の岩佐歩夢(ハイテックGP)は、これまで12レースを終えて優勝1回、選手権暫定11位にとどまっている。開幕前には新人ながらコンスタントに優勝争いに絡める実力の持ち主と目されていただけに、予想以上に苦戦している印象だ。

 今回のロングインタビュー前編では、そんなシーズン前半の不振の理由、そこからの態勢立て直しについて、じっくり語ってもらった。

────────────────────

──シーズン前半は序盤は苦しいレースが続きましたが、最後の第4戦ハンガリーのレース1で待望の初優勝を果たした。調子は上向いているという印象です。

岩佐歩夢(以下、岩佐):開幕戦から一番苦しんだのは、クルマのセッティング面でしたね。ドライビングも開幕前の2回のテストでは詰め切ることができず、そのまま開幕戦に臨んだところはありました。

 でもそれ以上に、マシンセッティングがいいところから遠ざかっていましたね。チームも改善に取り組んでくれましたが、僕が理想としているレベルにはなかなかいっていなかった。それでも(第3戦)ポールリカールでトップ争いをしたりもしましたけど、そこでもマシン自体にいい感触はなくて、リバースグリッドでなんとかトップ争いができたという感じです。

──それでも次のハンガリーで、初勝利を挙げました。

岩佐:初めてのコースでしたけど、シミュレーターの段階から自分に合っている感じはしていました。それもあって最初から、自信を持って臨めましたね。マシンに関しては、開幕からずっとアンダーステア傾向が強くて、レースでは悪くなくても予選一発では全然曲がらずに苦労していました。そこはハンガリーも同じで、なんとか直そうとかなり極端にオーバーに振っても、路面自体がよりアンダーになっていきますから、全然足りなかったです。

 それでもチーム内ではトップの速さで、なんとかリバース内の12番手以内に入ることができました。それが優勝につながる最大の要因でしたね。でもレースではいつもより全然ペースがよくなくて、抜けないコースレイアウトや、ライバルのペナルティに助けられた優勝でした。正直、初優勝とはいえ、あまりすっきりはしていません。

2021年FIA-F3第4戦ハンガリーのレース1で2位に入賞した岩佐歩夢(ハイテックGP)。レース後、優勝したロレンツォ・コロンボ(カンポス・レーシング)がペナルティを受けたため、岩佐が繰り上がりで優勝となった

──チームのイニシャルセッティングがあまりにレースに振りすぎていると、以前言ったことがありましたね。その状況はハンガリーまで変わっていなかった?

岩佐:ええ。ただ今週末のスパに関しては、クルマのキャラクターが思い切り変わるような変更を考えていると言われています。実は今回から、エンジニア構成も変わるんです。それで夏休みに何度もエンジニアミーティングを開いて、大きな変更を決めたみたいです。

──岩佐選手のエンジニアも変わるのですか?

岩佐:いえ。チーフエンジニアが、F2から来ました。

──イニシャルセッティングは3台同じで、そこから変えていく?

岩佐:そうです。ドライバーのフィードバックに合わせて、変えていきます。

──岩佐選手含め、ハイテックGPの3人ともアンダーステアに苦しんでいますか?

岩佐:どちらかというと僕のフィードバックが一番アンダーが大きいと訴えていますね。他のふたり(ジャック・クロフォード、ロマン・スタネ)は、「まあアンダーだけど」というくらい。特にロマンはアンダーを好むドライバーなので、大きな不平は感じていないですね。

──そこはドライバーによって、ずいぶん違いますよね。

岩佐:ええ。エンジニアと話していても、今年の3人はとにかく方向性や(ドライビングの)キャラクターが全然違うので、イニシャルセッティングを3人に合わせるのにすごく苦戦していると言っていました。

2021年FIA-F3第4戦ハンガリー 岩佐歩夢(ハイテックGP)

──岩佐選手はフロントがしっかり入る、キビキビ曲がってくれるクルマが好みですか?

岩佐:そうですね。アンダーは確かに乗りやすくて不安要素のないクルマに仕上がりますけど、オーバーで多少は自分が苦戦してでも、ドライビングをそれに合わせた方がタイムは出ると思っていますから。リヤがフラフラして運転が大変でも、予選一発の速さのためにはそちらの方向に持っていくべきかなと。

──それだけマシンコントロールにも、自信があると。

岩佐:そうですね。オーバーに関しては苦手意識はないです。とにかく予選に関しては、タイムが出るクルマを与えてほしいというのが、今の一番の願いです。それに僕自身のドライビングを合わせていってタイムを出す。そういうアプローチをしたいです。

──そうすると今週末のスパでどんなクルマになっているか、非常に気になりますね。

岩佐:はい。単にオーバーに振るだけじゃなくて、マシン特性も変わっていると予想しています。あとは僕のドライビングをそこにうまく合わせて、結果を出したいですね。

2021年FIA-F3第2戦フランス 岩佐歩夢(ハイテックGP)

──前半戦でのベストレースは当然ハンガリーの優勝したレースだと思っていましたが、今の話だと決してそうではないのでしょうか?

岩佐:飛び抜けていいわけじゃないですね。レース内容はよくなかったですし、予選もあそこまでアンダーが酷くなかったら、もうちょっといけた、上位に食い込めたという思いがあります。

──それ以外でも、前半4ラウンド12レースで、会心のレースはなかった?

岩佐:そうですねえ。これは行けた、というのはなかったですね。

2021年FIA-F2第3戦オーストリア 岩佐歩夢(ハイテックGP)

──ハイテックは実力的には優勝を狙えるチームだと思うのですが、現在選手権上位のプレマ・レーシングやトライデント、ARTグランプリに大きく差をつけられています。何が足りないと思いますか。

岩佐:4ラウンド彼らと戦って、それから昨年までの上位3チームの車載映像とかを見て感じたのは、彼らは去年までのよかったデータを持ち込んで戦っているというよりは、意外にコース状況やドライバーに合わせて、クルマの根本的な動きを変えているんですね。そう見えました。データ重視でなく、そうやって状況にアジャストさせています。

──データの蓄積はあるのに、それに100%頼らず、臨機応変にクルマを変えているのですね。

岩佐:はい。そういう印象です。ただそのなかでトライデントは、予選一発はすごく速いけど、レースは苦戦している。そこはハンガリーの車載映像で一目瞭然でした。オーバーでフラフラでしたから。でもそこまで極端に振ってでも、予選で前に行こうとしています。

──今年のF3のレースフォーマットだと、それくらい予選重視にした方がいいのですか?

岩佐:特に抜けないハンガリーはそうですね。

──そこはもちろん、岩佐選手も意識はしていますか?

岩佐:はい。予選が基本的に大事なのはわかっています。レースではもともと悪くないクルマですし、予選をなんとかしようとずっとチームに訴えています。

──ハイテックはその辺り、ちょっとコンサバですか?

岩佐:過去にユーリ・ビップスやリアム・ローソンなど、いいドライバーが走っていますよね。そのデータをもとに、セッティングを大きく変えることなくまずはフリー走行を走らせて、そこから変更していくという流れですね。でもコンディションは毎年変わりますし、フリー走行でいきなり速いチームが結果的に予選も上位に行って、同じメンバーがグリッド上位を固めている。イニシャルセットの差を、そのまま予選まで引きずっている印象です。

2021年FIA-F3第2戦フランス 岩佐歩夢(ハイテックGP)
2021年FIA-F3第1戦スペイン 岩佐歩夢(ハイテックGP)

© 株式会社三栄