「エンジンがかかると雨が降り出す」国内モータースポーツ界の“伝説”はホント? ウソ?

 2021年もシーズン後半戦となった日本のモータースポーツ界。そんな国内モータースポーツの世界には、ある“伝説”がある。それは、走行直前にエンジンの暖機を行ったり、コースインすると、それまで降っていなかった雨が降り出す……というもの。またその理由として「エンジンから発生するエキゾーストノートで上空の大気が振動し、雲が刺激されて雨が降り出す」とまことしやかに語られてきた。この“伝説”は、本当なのだろうか……?

 モータースポーツは極論を言ってしまえば2本、あるいは4本のタイヤをいかに接地させ、車体を進めるかの勝負で、化学や物理の法則からは逃れられない。路面温度、湿度、また路面が濡れているか、乾いているか。刻一刻と変わる自然との戦いだ。そんなモータースポーツを制するための心強いパートナーとして、スーパーGTでニッサン系をサポートしているのがウェザーニューズだ。

 1970年に、船舶向けの気象情報提供を行うためにスタートしたウェザーニューズは、カスタマーのニーズに対応した気象情報をレポートし、スーパーGTで戦うニッサンチームの強みになっている。そんなウェザーニューズで、長年ニッサン系チームを担当している佐藤俊輔モータースポーツ・セールス&マーケティング担当に、冒頭の“伝説”への疑問をぶつけてみた。天候のプロフェッショナルは、どんな回答をくれるのだろうか。

 まず、「走行直前にエンジンの暖機を行ったり、コースインすると、それまで降っていなかった雨が降り出す」というのは“ホント”。実際にあり得ることだという。ただし、「上空の大気が振動し、雲が刺激されて雨が降り出す」というのは「それは“ウソ”で良いと思います」とのことだった。

 では、なぜレーシングカーが走り出すと雨が降り出すのかというと、原因はクルマから発生する熱だ。レーシングカーやタイヤから発生する熱は大きく、ウエット路面からドライに乾いていく状況を見ても、それは伝わるはずだ。

「あれだけの熱がいきなりまとまって上がるので上昇気流が発生し、雲が起こりやすくなります。その時の条件にもよりますが、水蒸気がたくさんあれば雲になり、雨が落ちてくるというのが真実だと思います」と佐藤さん。今にも雨が降りそうな雲が多い日、熱による上昇気流が上空の雲を刺激し、雨が落ちてくるのが“伝説”の正体のようだ。

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■気候変動により、“伝説”は過去の話に?

 ただこの件について、佐藤さんは「そういった条件が整うのは、今は厳しいかもしれません」と続けた。いったいどういうことなのか。聞くと、非常に興味深い内容を語った。

「まわりがこれだけ暑くなっているからです。通常でも極端な気象状態が起きていますし、今年のように暑い日が続いたりしていますが、(レーシングカーから)少し熱が起きるような状態では現象が出にくくなっていると思うんです」

「温暖化でまわりが暖かくなっています。レーシングカーから発せられる温度が極端に上がればそういうことが再びあるかもしれませんが、基本はレーシングカーからの温度は同じですよね。だからこの現象は起きにくくなってくるのではないかと思います」

 以前の気温であれば、急激に熱をもった上昇気流が発生したときに雨が降るときがあったが、地球温暖化ですでに気温が上がっている近年は、この現象が起きにくくなっていると指摘する。

「もう10年ほど前になるでしょうか。NISMOさんにお世話になってから、最初にこの件について質問されたのが本山哲さんからなんです。でもその頃からは、まわりの気温が変わっていて、今そういったことが起きるのは少なくなっていますよね。こういった気温の変化が感じられるのがこの10年です」

 地球温暖化により、この“伝説”は、今後は“昔語られていた伝説”になってしまうのかもしれない。

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