【新潟2歳S】どう考えても〝一択〟 レース史に残るハープスターの追い込み劇

直線だけで17頭抜きしたハープスター

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2013年新潟2歳S】

数年に一度、大物が出てくるイメージの新潟2歳S。2001年のバランスオブゲームは重賞を7勝する名馬になりましたし、2008年のセイウンワンダーは暮れの朝日杯FSを勝っています。新潟の長い直線は紛れがなく、強い馬が勝つコース──というイメージがあるので、素質馬が出てくるのかもしれませんね。まあ、バランスオブゲームの頃は1400メートルだったんですけど(苦笑)。

しかしながら、このレースのハイライトは2013年の〝一択〟でしょう。4コーナーどころか、残り400mの地点でも最後方の18番手。絶体絶命の状況から、17頭を一気に抜き去り、それどころか2着に3馬身の差をつけてしまったハープスター。直線一気のスタイルで人気を博した彼女のレースはどれもハラハラドキドキで、そのレース後は言い知れぬ興奮と安堵が襲ってくる──。本来は相容れないはずのものを同時に味わえる贅沢な馬だったのですが、それの最たる1戦が2013年の新潟2歳Sだったように思います。

このレースを観たことがない…という人はさすがに少数でしょうが、ハープスターの追い込みと言えば、数ある大レースよりもこのGⅢを僕は推したい。レースを理解しきれず、ゆえに直線入り口でもモタモタ。デビュー2戦目だからこその〝鬼脚〟でした。

さらに言えば、ハープスターから3馬身も後ろでゴールをし、能力の差をまざまざと見せつけられた格好の2着馬イスラボニータが、翌年の皐月賞馬になっちゃった。これもスゴくないですか? しかも、この敗戦後には4連勝(重賞は3連勝)で皐月賞までぶっこ抜いちゃった。〝伝説の一戦〟というフレーズを軽く扱いたくはないのですけど、このレースには〝伝説の~〟にふさわしい。もちろん、個人的には3着だった橋口弘厩舎のピークトラム(6番人気)に残ってほしかったですし、それなら馬券も大儲けだったのですけど、それ以降の両馬の戦績を考えたら、この3着は「小牧さん、グッジョブ!」(笑)。3連複が8280円、3連単は31910円の好配当なら、万々歳とすべきですよね。

意外に思うかもしれませんが、当時はハープスターの評価が定まっておらず、1番人気ではあったものの、単勝オッズは2・6倍もつきました。これもデビュー2戦目ならでは…のマジックだったかもしれませんね。キャリアのほとんどを1番人気(ゴールドシップが相手で小回りコースも初めてだった札幌記念の3・7倍=1着、凱旋門賞帰りとなったジャパンCの4・1倍=5着の2戦が2番人気)で走り、そのオッズも全て1倍台だったハープスターが、ローカルGⅢで2倍台だったなんて、あの馬のポテンシャルを知った現在では信じらないと思います。

ですが、長めからしっかりと乗るものの、その時計は速くなく、ラスト1ハロンだけを伸ばしてくることが多かった松田博資厩舎の追い切りは調教の数字のみで判断するのが難しかった。実際に馬を見ていない関東の記者が、新馬戦の勝ち時計が平凡で着差も大きくないハープスターを強く推すことはできなかったのかもしれません。むしろ、過剰に人気していると思っていた方も多かったりして。

僕自身はデビュー前の段階で資質の高さを聞かされたうえに、同馬を担当していたのがベガにアドマイヤドン、ブエナビスタなども担当した山口慶次厩務員であることも知っていたので、GⅠ級であることを確信していましたが、その僕でさえも驚いた真夏の追い込み劇。あれ以上のレースを新潟で観ることは今後も難しいと思いますよ。

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