愛甲猛氏が “中田翔問題” を斬る 「後輩にメリットのある先輩ではなくなったことを自覚すべき」

愛甲猛氏

暴力行為で出場停止中だった中田翔内野手(32)が日本ハムから巨人に移籍したとたん、出場停止処分が解除されて普通に試合に出ていることが波紋を呼んでいる。この問題をダークな球界裏事情に詳しい〝あの人〟はどう見ているのか。ロッテ、中日OBで自他ともに認める「アウトローの専門家」愛甲猛氏が、緊急寄稿した。

「出場停止9日」が、長いのか短いのかはオレには何とも言えない。ただ、巨人にしてみれば、せっかく獲得した選手を試合で使うのは当然のこと。文句を言われる筋合いはない。野球だけのことを考えるのであれば「いい買い物」だったと思うし、世間から批判の声が殺到しているといっても、ファン離れは起きないだろう。実際「中田がどれだけやれるのか?」と、関心を持っている人のほうが多いのではないか。

ただ、オレが気になったのは「巨人のユニホームできるのが早すぎないか?」という点。作るのには少なくとも2、3日はかかるわけだし、栗山監督が「時間をください」と話していた時点で発注が済んでいたのでは。日本ハムとしても高額年俸選手を切ることができたわけで、騒ぎにはなったものの落ち着いて考えれば、両球団にはメリットが大きいトレードだったように思っている。

もちろん野球をできるチャンスをもらえた中田にとっても、よかったんだろうけど…。巨人では外国人選手の補強もあるし、使えないと判断されたら、すぐに切り捨てられる。給料も今まで通りのようにはいかない。野球を続けたいのなら〝使い捨て〟されないよう、とにかく巨人で結果を出すしかない。巨人以外の球団が手を出しづらい選手という状況は変わっていないだろうから。

今回の騒ぎで思うことは、暴行の程度とそれに至る経緯が、ちゃんと説明されていないことも原因としてあるんじゃないか。オレが伝え聞いたところでは「反抗的な態度の後輩をどついた」程度なんだけど、実際のところはわからなくてモヤモヤするから「暴力は暴力だ」「出場停止が9日では短い」となって批判も大きくなる。

程度や経緯がわからないのに、9日で短いかどうかを議論しているのはどうなのか。具体的な説明がないのは、被害選手を守りたいのかもしれないが、世間に試合に出ることを認めてもらいたいのなら、記者会見である程度は説明したほうがよかったし、それができないのなら、被害選手への謝罪感をもっと出すべきだったと思う。それは記者会見の〝台本〟を書いた人にも責任はある。

最後に、中田に言いたいことは「後輩にとってメリットのある先輩ではなくなったということを自覚しなさい」ということ。一切、後輩の面倒を見ないベテラン選手もいる中で「お前ら、飲みに行くからついてこい」というタイプの中田が、これまでやってきたことは、いいことだと思う。

しかし「タダめし」「タダ酒」しかメリットのない先輩からは、自然に後輩たちは離れていく。プロ野球選手として自分が成功するために、この先輩から何が吸収できるのか。今回の中田は後輩たちから「この人についていってもメリットがない」と見限られたわけで、そこはしっかり肝に銘じたほうがいい。

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