智弁和歌山Vで幕「甲子園ドーム化」現場の声 異常気象対策で実現するのか

「智弁対決」となった決勝戦を制したのは智弁和歌山だった

【ズームアップ甲子園】第103回全国高校野球選手権大会は29日に決勝戦が行われ、智弁和歌山が智弁学園(奈良)を9―2で下し、21年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、無観客で開催された今大会は、開幕から異常気象に巻き込まれ、7度も雨天順延。さらに感染者が出たことで2校が開催中に出場辞退する事態に…。すったもんだしながらも、なんとか“完走”できたが、数々の課題が浮かび上がった大会となった。今後の対応策を含め、球児と向き合う現場のコーチらの見解を集めた。

台風9号と線状降水帯に泣かされ、開幕から順延に継ぐ順延。当初予定されていた3日間の休養日が1日に削られ、26日の決勝戦は29日に延期された。運営側は31日にまでずれ込んだ場合、プロ野球の阪神との朝夕同日開催まで準備したが、17日の大阪桐蔭(大阪)―東海大菅生(西東京)は土砂降りの雨の中でも試合を強行。ボールが転がらない状態になるまで続け、最後は8回降雨コールドで大阪桐蔭の勝ちとなった。

悪天候はどうにもならないこととはいえ、現場の指導者らは見るに堪えなかったという。「あんな状態でやらせるなんておかしい。もっと早く判断しないといけないし、豪雨になるならやらせない」と嘆き、来年以降の大会日程の大幅な見直しを訴えた。

ある関西の実力校のコーチは「学校の授業が始まる9月にずれ込ませたくないなら県大会から前倒しにし、甲子園も7月下旬から開幕すればいい。順調に進まないことを前提に最初からいくつもの予備日を用意しておかないと対応できない」と、これまでは考えられなかった異常気象も前提にすべきとした。一方で別のコーチは「9月にずれ込んだって決勝戦だけ阪神の遠征の間にやればいい。最後が間延びしたって決勝だけならできる」と提案している。

また「朝6時、7時から始めて5試合やればいい。昼に当たってしまったチームは暑いけど、それはクジ運。1日5試合消化ならある程度、順延続きでも対応できる。球場スタッフは大変だけど、日程を消化できないと言うならやるしかない。お客さんだって今まではもっと早くから球場に行列してたでしょ」と“早朝野球”も検討すべきだとした。

総じて現場サイドの声に共通しているのは「聖地は甲子園だけ」ということだ。近年は猛暑対策から「京セラで代替開催を」「甲子園は準々決勝から」などと選手の健康への影響を憂慮する見方が増えている。しかし「京セラは聖地ではない。甲子園で1世紀以上も続いている大会。これはいつになっても変わらない。生徒は小さいころから強い高校に入って県大会を勝ち、甲子園に出場するために一生懸命やっている」とこだわりは揺るぎなく、雨や猛暑でも「甲子園でやるべき」と主張している。

また、世間に根強くある「甲子園を屋根付きドームに」という案には「確かに空調もできるし、雨の心配もない。でも青空の下でやるのが甲子園大会。そこは野球の原点でしょう」と…。実際に今夏の東京大会は準決勝、決勝と東京ドームで行われた。猛暑を思えば主催者側と阪神球団がヒザを突き合わせ、真剣に議論する時期が来ているのかもしれないが、現場にすれば今も「青い空、白い雲…」といった甲子園像は不変のようだ。

今大会でもう一つの災禍は、宮崎商(宮崎)と東北学院(宮城)のコロナ感染者による出場辞退だった。宮崎商は13人の集団感染だったことで仕方のない判断だったが、東北学院は感染者が1人だったにもかかわらず、学校側が辞退を申し入れた。理由は「感染した選手が特定され、将来に影響する恐れがある」というものだった。

確かに松商学園(長野)との2回戦が行われたとして、ベンチを外れた選手を見れば当該選手はわかる。それが特定されることで、将来に影響を及ぼし、またはネットで誹謗中傷されたりするということか…。ある指導者は「今は誰しも感染の可能性があるし、それで名前が知られたところで責められるような話じゃない。その選手は自分一人のせいでみんなが出られなくなったと思う。将来を考えるというなら、そのことの方がかわいそうなんじゃないか」と疑問を投げかける。

また、別のコーチは「学校側というのは体裁を気にするもの。感染者が1人であっても2回戦に出れば『なんで出てるんだ』『なにかあったら学校の責任だ』という批判もくる。それを避けるために辞退を選んだんじゃないか」との見方も…。

個別感染として2回戦出場を容認していた日本高野連も「学校側を尊重する」(小倉事務局長)と“即受理”。鳥取県大会では米子松蔭の学校関係者に感染者が出ただけで出場を辞退したが、世間から猛批判を受け、鳥取高野連は一転して出場を認めている。「高野連は強く言えないもの」(前出コーチ)。東北学院も世間の批判が出ていたらどう転んでいたかはわからない。

徹底した感染防止策にもかかわらず、感染者が出てしまったことには「出た以上はどこかに原因はあるし、思い当たるフシはあるはず。若年層は広がりやすく感染力も強い。その意味ではPCR検査だけじゃなく、ワクチン接種は必要だった」との声もあった。兵庫県の緊急事態宣言で高野連は22日からアルプス席の吹奏楽部の入場を不可としたが「無観客で他のスタンドが空いているなら吹奏楽部に開放してもよかったのでは」との声も聞かれた。

いずれにしても異常気象への対応とコロナ対策に正解はなく、運営側はできうる最善の策を考えるしかない。来年以降も「甲子園での完結」にこだわるなら、引き続き二重苦、三重苦と向き合っていく覚悟が必要だ。

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