22歳の新鋭ツァイス、初優勝の夢は最終SSに散る。コペッキーが前人未到の地元9勝目/ERC第4戦

 同じ欧州選手権であるETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップの第4戦モストが開催された8月27~29日の週末に、同じくチェコ共和国を舞台とするFIA格式のERCヨーロッパ・ラリー選手権第4戦バルム・チェコ・ラリー・ズリンが、首都プラハから南に300km離れたモラヴィアの周辺地域を舞台に争われた。

 その主役を演じたのは地元出身の22歳、エリック・ツァイス(フォード・フィエスタ・ラリー2/ヤッコACCRチーム)で、終始ラリーを支配する圧巻のスピードを披露。まだ短いキャリアながら、同ラリー通算8勝、現在5連勝中と無類の強さを誇るヤン・コペッキー(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ/アグロテック・シュコダ・ラリーチーム)を圧倒するドライビングを見せた。

 しかしコペッキー以下、新たに選手権リーダーとなったアンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ/トクスポーツWRT)ら実力派ドライバーたちを従え、ERC初優勝まであと数kmに迫ったツァイスだったが、最終SSで運命の悪戯に翻弄される。

 SS15のスタートから約13km地点の右コーナーで路上から滑り落ちた彼のフィエスタは、ロールオーバーして横転した状態のままストップ。コース復帰はかなわず、終始2番手でラリーを進めていたコペッキーが「今回の勝者は明らかにツァイスだった」と地元の新鋭に賛辞を送りつつ、前人未到の6連勝での母国イベント9勝目を手にしている。

 元ダウンヒルマウンテンバイクレーサーで今季からERC主催のミシュラン・タレント・ファクトリーに登録してシリーズを追っているツァイスは、ここズリン在住の地の利を活かして初日から“ビッグネーム”たちを追い回すと、名物SSである18.95kmのSS5、Pindula1(ピンデュラ1)で最初のステージベストを奪取して見せた。

 すると、午後のループでもSS7を最速とし“盟主”コペッキーに追いすがり『地元スペシャリスト対決』の構図に持ち込んだツァイスは、レグ1最終となる2度目のピンデュラで驚異的なドライビングを披露。スタート時点でラリーリーダーのコペッキーに対し5.8秒遅れだった元ダウンヒルレーサーは、ウエットのターマックで同イベント5連覇中の“マイスター”を7.9秒も上回り、2.1秒差で逆転ラリーリーダーに立ってセンセーショナルな初日を締めくくった。

「それは本当に『天国と地獄』のジェットコースターで、僕が今までドライブしたなかで最高のステージのひとつになった」と、フィニッシュ直後に振り返ったツァイス。

「とても素晴らしいステージで、最高のドライビング感覚が得られる設定。おかげで極限までプッシュすることができた。ステージの至るところにファンの姿が見えたし、新年よりもたくさんの花火を目にした。まるで“小さなラリー・モンテカルロ”みたいだったよ」と続けたツァイス。

 一方、金曜夜のスーパーSSから、終始ラリーの主導権を握ってきた2013年ERC王者のコペッキーは、9度目の完全勝利に向け「真の挑戦が立ちはだかった」と、同郷の後輩の走りを警戒する言葉を残した。

「どんな状況でも、自分の経験を活かして本当に速く走るための方法を模索している」と続けたコペツキー。「彼はかなり“クレイジー”で、僕が犯さなかったある種のリスクを容認したドライブを続けている。僕はこのラリーをトップ3で終える必要があるから、明日の長い1日に向けても無用なリスクを犯すつもりはないよ」

2018年から本格的にラリーを始め、ERC3とERC1の各ジュニアでそれぞれ1年というキャリアのエリック・ツァイス(フォード・フィエスタRally2/Yacco ACCR Team)が、この難ターマックで旋風を巻き起こす
オープニングから3連続を含む、5回のSSベストを刻んだヤン・コペッキー(シュコダ・ファビアRally2 Evo/Agrotec Škoda Rally Team)でも、レグ1では2位がやっと
初日首位から16.6秒遅れの3番手につけたアンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビアRally2 Evo/Toksport WRT)
ラリーストだった父ミラスロフも達成できなかったSSベストを奪取し、初日サービスに凱旋のツァイス「彼がいなければ僕も存在しない。ラリーを勧めてくれた父に感謝したい」

■最終的に表彰台を独占したのはシュコダ・ファビア

 そんな先輩の言葉を知ってか知らずか、明けたレグ2でさらにギヤを上げたツァイスのフィエスタは、ミシュランのグリップ限界に挑むかのようにオープニングのSS10から4連続ベストタイムを叩き出してスパート。最終ステージとなるSS15を前に、2番手コペッキーに対し20.2秒ものマージンを稼ぎ出してみせる。

 最後の25.43kmを無事に走り終えれば、歴戦の実力派ラリーストたちを相手に栄光の欧州選手権初優勝を手にするというそのシチュエーションを前に、ツァイスの挑戦は無情の最後を迎え、転倒したマシンから脱出し無傷で這い上がってきたふたりのクルーは、残念ながらそこでラリーを終えることとなってしまった。

「右5(ライト・ファイブ)のコーナーで、少し滑りやすい場所だった。ブレーキングは悪くないと思っていたけれど、予想以上にスライドして左のリヤが路上から落ちた。そのままコース上に留まることができず、溝のなかで何かに引っ掛かりホイールを破損した状態で1回転したんだ」と、アクシデントの状況を振り返ったツァイス。

「小さなミスで大きな代償を支払うことになった。困難な時期に僕を支えてくれたファンとチーム、パートナーなどすべての人にお詫びを言いたい。でも、僕らの走りを故郷のズリンとチェコ共和国のみんなが誇りに思ってくれたら幸いだ」

 一方、前日レグ1早々から彼の速さを認めていた“ズリンの盟主”は、最終ステージを走り終えた時点で「彼こそがこの週末の真の勝者だった」との特別なメッセージを贈った。

「彼は勝利に値するし、それは誰の目にも明らかだ」と続けた同ラリー6連覇のコペッキー。「彼はピンデュラのステージで信じられないほど速かったが、最後は表彰台ですべての物事が決する。エリック(ツァイス)は本当に素晴らしい仕事をし、たったひとつのミスを除いて今日の王様だった」

「その一方で、僕らもラリーを成功に導くために勝負している。短期間の難しい準備だったけれど、僕らはこの勝利に値すると思う。コンディションがいつも変化するなかで、僕が走ってきたキャリアのなかで最も難しいラリー・ズリンだったよ」

 その背後には「ライトと泥でグリップを予測するのは本当に難しかった。20秒速いこともあれば、森のなかで立ち尽くすことになる可能性もあった」と語りながら、初日のSS4で最速を刻んでいたミケルセンが、ほぼ10年ぶりのズリン参戦で2位に入り表彰台を獲得。

 今季ここまで1ポイント差でタイトル争いを繰り広げながら、木曜のシェイクダウンテストで大クラッシュを喫し、ラリー開始を待たずに撤退を決めた現ERCチャンピオンのアレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3ラリー2/サンテロック・ジュニアチーム)を上回り、新たな選手権リーダーの座に着いた。

 さらに最後のポディウムスポットには2019年のERC1ジュニア王者でもあるフィリップ・マレシュ(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ/ACCRラウレタオート・シュコダチーム)が続き、ミシュラン装着のシュコダ・ファビアが表彰台を独占。一方で、クレイグ・ブリーンの代打として注目を集めたWRC3チャンピオンのヤリ・フッツネン(ヒュンダイi20 R5/チームMRFタイヤ)は、SS7でクラッシュを喫し修復不能なダメージを負いリタイアとなっている。

 劇的なシーズン折り返しとなったERCだが、続く第5戦はこちらもシリーズ伝統の1戦として、大西洋中部に浮かぶサンミゲル島を起点とした島嶼部で争われる風光明媚なグラベル戦、第55回アゾレス・ラリーが9月16~18日に争われる。

レグ2でもそのスピードは衰えず、朝のSS10から4連続ベストタイムを叩き出したツァイスだったが……
「エリックは本当に素晴らしい仕事をし、たったひとつのミスを除いて今日の王様だった」と、新鋭を称えた勝者コペッキー
「もちろん(アレクセイ・)ルカヤナクがラリーを戦わなかったのは残念だが、今週末のパフォーマンスには満足している」と2位獲得のミケルセン
「エリックにとっては不運だった。彼の走りは勝利に値した」と3位のフィリップ・マレシュ(シュコダ・ファビアRally2 Evo/ACCR Laureta Auto Škoda Team)

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