タメ口きいただけで…“硫酸ぶっかけ男” 怨念の根底にある幼少期の「愛着障害」

捜査する高輪警察署

東京都港区の東京メトロ白金高輪駅で男性会社員(22)に硫酸をかけたとして、傷害容疑で逮捕・送検された静岡市の大学生花森弘卓容疑者(25)が「大学時代、男性の態度が悪かった」という趣旨の供述をしたことが30日、分かった。警視庁は恨みを募らせて事件を起こした可能性があるとみて調べる。しかし、“態度が悪い”だけで硫酸事件にまで発展するのだろうか。専門家が分析した。

捜査関係者によると、男性が警視庁に対して、花森容疑者が7月下旬に勤務先付近に訪れ、態度について文句を言われたと説明していることが判明。「大学時代にタメ口を使いトラブルになった」とも話している。2人は琉球大の映画サークルで一緒だった。花森容疑者は昨年度、静岡大に編入した。
現場の白金高輪駅近くで手袋が見つかり、付着していた指紋と、花森容疑者宅の家宅捜索で採った指紋が一致。事件で使ったとみられる。事件当時着ていたとみられる黒いシャツも見つかり、警視庁は着替えて逃走したとみている。

事件の数時間前の24日午後5時ごろ、男性の勤務先周辺を花森容疑者がうろつく様子が防犯カメラに写っていた。待ち伏せしていたとみられる。男性はその後、近くの駅から乗車。花森容疑者が同じ電車に乗り、白金高輪駅までついていく様子も写っていた。警視庁は30日までに正式鑑定で、容疑者が男性にかけた液体を硫酸と確認した。

数年前の“悪い態度”“タメ口”が動機になるのか。日米で連続殺人犯、大量殺人犯など数多くの凶悪犯と直接やりとりしてきた国際社会病理学者で、桐蔭横浜大学の阿部憲仁教授はこう語る。

「動機になり得ます。私は前々よりこうした凶悪犯罪の根底には幼少期の“愛着障害”が存在すると主張してきました。確かにここ10年で両親を失ったことは彼の生活をより孤立的なものにしたことは間違いないでしょう。しかし、それまでに十分な愛情が花森容疑者に掛けられていたならば、その愛情の“貯金”でその後に起こることにも普通に対応できたはずです」

花森容疑者については、同級生らから「周囲と距離を置く」「周りから浮いていた」などの証言が出ている。

阿部氏は「凶悪事件の犯人は、たいてい十分コミュニケーションのある変化に富んだ生活を送って来ていないのです。むしろ、人との接触の少ない人生を送り続けてきた彼らの人生には出来事が大変少なく、それゆえ、過去のちょっとした気に入らないことも鮮明に覚えているのです。花森容疑者の頭の中では、数年前にみんなの前で後輩に敬意の感じられない態度を取られたことは、いまだに現在進行形の出来事として生き続けているのです」と言う。

静岡で社会から孤立した生活を送っていたとすれば、自分の怒りを聞いてもらうこともできず、マイナス要素が蓄積され続けたのかもしれない。
「凶悪犯罪を行う人間は、一般の人間と同じ環境で育っていないケースが多い。そして、彼らはストーカーなどにも見られるように極端な“粘着体質”を持ちやすいのです。“愛憎のもつれ”を指摘する方もいらっしゃる。その可能性もゼロではないでしょうが、根底にあるのは一般の家庭環境とは異なる環境であり、そこから生ずる極度の粘着体質であることは間違いないでしょう」と阿部氏は指摘している。

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