佐藤輝明を「ゴリオ」と呼ぶ戦友 同部屋で見た“モノノフ”の素顔と打撃求道者ぶり

近大時代の佐藤輝明(左)と美濃晃成【写真:本人提供】

高松商で選抜準優勝の美濃晃成、佐藤輝明との出会いが原動力に

衝撃的な第一印象を、鮮明に覚えている。「でっかー!」。高校3年の8月末、近大の練習に参加した時のこと。とても同学年とは思えない大柄な選手がひとりいた。その4年後に4球団がドラフト1位で競合する彼こそ、阪神の怪物ルーキー・佐藤輝明内野手だった。【西村志野】

「よく一緒に練習したし、プライベートでもよく食事に行きました。みんな“テル”って呼ぶんですけど、僕は“ゴリオ”って呼んでいます(笑)」

JR四国に今春入社した美濃晃成内野手は、近大での4年間を懐かしそうに振り返る。佐藤輝とは計1年、寮の同部屋で過ごした仲。とにかくマイペースな「ゴリオ」を揺すり起こし、いつも朝の練習に行っていた。

「ももクロ(ももいろクローバーZ)のライブDVDを部屋で観ている時は、テンション高かったですね(笑)。DVDを観ながらよく掛け声を叫んでいたので、僕は動画を撮りながら笑っていました」

私生活では明るいキャラクターで、チームの誰からも好かれていた存在。反面、打撃について語り始めると、話が止まらなくなることも。

「僕は高校の時から(ボールとバットを)“点”で捉えて打つイメージだったんですけど、(バット軌道の)“線”に入れるのが大事やと教えてもらって。最短距離は点ではないよ、と。同じ左打者として左投手への対応の仕方も結構話をして、引き出しが増えました。バッティングに対する考え方が変わりましたね」

結果で示される分、説得力は大きかった。関西学生リーグ通算14本塁打を放ち、二岡智宏(現巨人3軍監督)の記録を更新。打撃を日々振り返り、自らの考え方を築いている姿には驚かされた。

「本能的にプレーするタイプに見えて、あいつは意外と考えるタイプ。『あの時はこうやって打てたから』とか、自分のバッティングから色々と考えてやっているので、すごいなと思いましたね。お互い突き詰めたい派なので、納得するまで語り合う時間が楽しかった。盗めるところは盗みたいし、今考えてもあんな機会はなかなかない。自分の引き出しを増やせるかなと、聞きたいことは聞いていました」

佐藤輝とは対照的に苦しかった大学生活…リーグ戦わずか8試合出場

アーチを量産していった佐藤輝とは対照的に、美濃は苦しい大学生活だった。高松商では二塁手のほか投手としても活躍し、2016年春の選抜で準優勝に貢献。胸を張る成績をもって関西大学球界の強豪に入ったが、リーグ戦では出場した8試合全てが途中出場。登録メンバーから漏れる時期もあった。「ふがいない4年間でした」。そんな日々を腐らずに過ごせたのは、いまプロの世界で輝く戦友のおかげだという。立場が変わっても、大きな原動力になっている。

「最初は結構(結果を)チェックしていたんですけど、今は打って当たり前みたいになっていますよね。これまで一緒にいたヤツじゃないなという不思議な感覚です」

同部屋の「ゴリオ」は、全国に名を轟かせる「サトテル」に――。違う世界で奮闘する友の姿は誇らしく、ほんのほんの少しだけ寂しい。ただ、変わらぬ佐藤輝の行動が、変わらぬ関係性を教えてくれる。

「LINEをしたら、時間がかかっても絶対に返してくれるんですよね。電話をしても出るし、うれしいです」

時間が許せば、打撃や守備のことを聞いたり、動画を見てもらったり。「向こうはどう思っているか分からないですけど、ただ立場がプロ野球選手になったくらいで、関係は変わらないですね」。今でもグラウンドで“手本”を示し続けてくれていることが、何より頼もしい。

午前中は駅員、午後に練習「もう1度、野球で勝負がしたい」

印象に残っているのが、5月2日の広島戦(甲子園)。プロ入り後初めて4番に座った佐藤輝が、第3打席に逆転満塁本塁打を放ったのを映像で目の当たりにした。

「初の4番で満塁ホームランというのも持っているなと思うんですけど、前の打席で打ち取られた、同じチェンジアップを打ったのがすごい。修正能力が高いなと思いました。打ってくれるのはもちろんうれしいですが、解説者の方が褒めているのを聞くのも、自分のことのようにうれしいです」

多くの視線や、様々な意見が容赦なく向けられるドラフト1位。当初は三振過多を疑問視する声もあったが、己を貫いて新人記録を次々と塗り替えていく。「やっぱり肝が据わっていますよね。大学でも怒られても動じない姿をよく見たけれど、プロでもあれだけ三振しても全く変えずにフルスイングを続けている。自分を持っているところは、見習わないといけないなと思いますよね」。自室には、大学の寮を出る時にもらった佐藤輝のサインを飾っている。

自分も負けてはいられないと、背筋を伸ばす。午前中は駅員などの業務に取り組み、午後は練習。社会人生活にも慣れてきた。大学では外野を守っていたが、今は内野に再挑戦。今は野球をすることに、誰よりも飢えている。

「このままでは終われない。もう1度、野球で勝負がしたい。欠かせない選手になって、チームに勝ちを呼び込めるようなプレーをしたい。信頼される選手になりたいです」

新人王へと突き進む友と、また同じ舞台で――。いつも電話の最後に、必ずお互いが伝え合うのは、ありふれた言葉。でも、濃い時間をともにしてきた2人には、この5文字で十分だ。

「がんばれよ」(西村志野 / Shino Nishimura)

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