事故の教え

 季節の変わり目、とりわけ夏と秋の境目に当たる頃の空を「行(ゆ)き合いの空」と言う。「行き合う」とは道すがら人に会うことで、今時分は夏の名残と秋の気配が天の高い所で出会う時らしい▲地上では行き合いよりも行き違い、食い違いの問答が続いてきた。母子2人が亡くなった東京・池袋の暴走事故を巡る裁判で、自分に過失はないとした90歳の被告に、東京地裁は禁錮5年の実刑判決を言い渡した▲検察側はアクセルとブレーキを踏み間違えたとし、車に異常はなかったというデータもある。それでも被告は「間違えた記憶は一切ない」と主張し、車の異常だと言い切った▲運転を間違った覚えはない、だから過失はない。妙な弁明に今も首をかしげている。悲痛な事故を起こした当事者の言葉に後悔も反省もうかがえず、胸のざらついた人もいるだろう▲車の事故の発生時、アクセルをどれくらい踏んでいたか、ブレーキは作動したか-と記録する装置の取り付けを、国は義務化することにした。間違えた、間違えていない。言い分の食い違いをもう繰り返すまい▲なすべきことは山とある。免許証の返納を推し進め、自動ブレーキが付いた車を普及させる。運転せずに高齢者が生活できる社会にする。多くの知恵が行き合うようにと、悲しい事故は教えている。(徹)

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