今回取り上げる楽曲は、2003年に公開された劇場アニメ映画「東京ゴッドファーザーズ」のエンディングで流れた「No.9」。1975年結成という日本ロック界の重鎮・ムーンライダーズとそのリーダーである鈴木慶一によるナンバーだ。
曲名は「No.9」となっているが、実はこれ、ベートーベン作曲の「交響曲第9番」をカバーしたもの。年末になると耳にすることが多い、あの「合唱」、「歓喜の歌」である。
「第9」はエヴァンゲリオンをはじめ多くの作品でBGMとして使われたことがあるが、この「東京ゴッドファーザーズ」でのカバー版が他と大きく異なる点は2つ。まずはレゲエのアレンジが施されていること。ほとんどの場合はオーケストラ演奏による交響曲としてそのまま使われるが、こちらはレゲエのリズムが第9のイメージを全く別のものに塗り替えている。
もう1つは、日本語の歌詞が付いていること。作詞は鈴木慶一で、前半は鈴木のソロボーカル、後半はムーンライダーズを加えた大合唱になる。原曲もラストは合唱なのでそこは別におかしくないのだが、問題は歌詞の中身だ。
このアニメはホームレスたちが主人公で、歌詞もホームレスの心情を歌ったもの。あのおなじみのメロディーに乗せて「蒸発したいよ この世は闇だ」というような歌詞が合唱される。「歓喜の歌」だったはずがとんでもないことに…。
でも、この歌詞だからこそ胸に刺さるのも事実。特に映画本編を見てきたラストで流れると感涙モノ。もともと第9はこれが本来の形だったのではないかとさえ思わせてくれるから不思議である。